3月5日(土)

中山さん企画による『ヒップホップ学習会』の2回目は、音楽家兼評論家として活躍中の大谷能生さんをゲストにお招きしての対談形式。第1回目は、ヒップホップというジャズファンには馴染みのないテーマなので若干集客を危ぶんでいたのだが、予想に反する大入りで、コーヒーの注文が間に合わないなど、かえってお客様にご迷惑をおかけしてしまった。その反省もあって、スタッフを増やすなど万全の態勢でイヴェントに臨む。

今回は1時から3時まで朝日カルチャーセンターの講座を開講していたので、開店は3時30分。カルチャーセンターの生徒さんからの質問が若干長引き、刻限を5分ほど過ぎて開場すると、入り口階段の上までお客様が並んでおられ、寒い中をお待たせしてしまい、大いに恐縮する。当然客席はあっという間にうまり、補助椅子を出してようやく落ち着く。

イヴェントの進行は大谷さんが持参されたD.J.マシーンを駆使し、実際にD.J.が使うテクニックを披露。いままでなんとなく聴いていたサウンドが実に緻密に計算された上で作られたものだということが実感された。この効用だけでも大谷さんにおいでいただいた意味はあったというもの。

もちろん博識な大谷さんの解説はそれだけでなく、スイングからビ・バップへの移行、また、ジャンプ・ジャイヴなどと呼ばれるジャンルがブラック・ミュージックの中で占めた位置や、その後の音楽シーンへの影響など、ていねいに音源を示しながら追っていく。

一方、中山さんは大谷さんの解説を聞きつつ、要所要所で自説を開陳。かなり込み入った話なので要約は難しいが、メモ的に書いておく。大谷さんが指摘したのは、ビ・バップがスタンダードを引用することとヒップホップが既成の音源を引用することの類似。そして、ビ・バップがある種の反体制的雰囲気の中で生まれた音楽だとすれば、まさにヒップホップもそうした反逆精神を引き継いでいること。

これらの話はよくわかる。また、ジャズ、ヒップホップを含むブラック・ミュージックの歴史とダンスの関係についても大谷さんは語ったが、こちらは私自身あまり考えたことが無かったので、正直「そういうものなのかなあ」と思う部分もあった。今後の研究課題といえるだろう。

おおむね納得の行く話の展開ではあったが、最後の質疑応答の際「いっき」さんが質問された「話としてはビ・バップとヒップホップの類似はわかっても、“音”でそれを実感するのは難しい」というのも本当で、私自身を含めた一般ジャズファンには、まだビ・バップ→ヒップホップの道筋が音楽的な類似としてはっきり掴めたとはいえない。

ただ、この件については大谷さんが「ヒップホップがビ・バップから受け継いだものがあるとすれば、それはある種の精神的な部分で、“音”としては、コードを基にしたビ・バップより、モード系のジャズとの親和性が高い」と解説され、なるほどと思った。確かに慣れない耳には同じ調子(特にラップ部分)に聴こえがちなヒップホップは、ある種のモードジャズの雰囲気の同質性と似ていなくも無い。

ともあれ、これは「学習会」と銘打ってあるとおり、「すでにわかっていることを解説する」のではなく、「みんなで考える」ところに主眼がある催しなのだ。実際私自身、会を重ねるごとに少しづつではあるがヒップホップというものの実態が見えてきた。

面白かったのは、打ち上げの席で私が「D.J.クラッシュが気に入った」と言ったら、大谷さんが「後藤さんの好きそうなものを狙ってかけた」と言うではないか。「まだ2回しかお会いしたことが無いのに、どうしてそんなことがわかるの?」と尋ねると、「D.J.は会場のお客の顔つき仕草から好みを探るのが仕事です」と言われ、深く納得した。まあ、もしかすると大谷さんは私の日頃の言動から好みの見当を付けたのかもしれないが、それにしてもドンピタでした。

そんなこんなで、深夜の「いーぐる」でD.J.クラッシュをバックに大谷さんとダンス。たいへん楽しい一夜を過ごさせてもらいました。それにしても大谷さんは面白い方だ。