11月12日(土)

中山康樹さんの最新刊『ジャズ・ヒップホップ・マイルス』(NTT出版)刊行記念イヴェント、大好評のうちに幕を閉じた。柳樂光隆さんの若いのに落ち着いた司会進行ぶりで始まったイヴェントは、中山さんによるこの本が出来るまでの内幕話や、ゲストにおいでいただいた原雅明さんによるヒップホップ・シーンの現状など、こうした機会でなければ聞けない貴重な話が満載だった。

中山さんのお話は非常に明確で、当日来てくれた原田和典さんを除き、大部分の読者が誤読しているという。中山さんはこの本を「ジャズの本」として書いたつもりなのに、ヒップホップ側からの誤解が少なからずあるという。かく言う私自身、今年5回に渡って行われた中山さんによる『ジャズ・ヒップホップ学習会』のメインテーマが「ジャズは今ヒップホップに受け継がれている」というものだったので、当然この本もジャズとヒップホップとの繋がりを詳説しているものとばかり思っていたが、どうやらそうではないらしい。

確かに両者の繋がりより、ジャズ史の見直し的色彩の強い本ではある。要するに、5回の「学習会」とこの本は微妙に違うものということなのだろう。このあたりの経緯は5回の学習会すべてに参加してくれた「いっき」さんのブログに詳しいので、そちらを参照していただきたい。

個人的には、原さんがかけてくれたカニエ・ウエストのサウンドが気に入った。なかなかゴージャスで、しかもセンスが良い。中山さんご推薦のマッドリブは、私の耳には少々頭でっかちのように聴こえる。私の発想自体が古いのかもしれないが、ヒップホップをかつてのフリージャズのようにして聴くのは、少々気が重い。

好例の質疑応答では、「音楽夜噺」主宰の関口義人さんから「ツッコミどころ満載」しかし「それも計算のうちなのでしょうか?」という少々辛口な感想が出たが、これは一部の読者の反応を代表しているように思えた。いっきさんは、中山さんの「これはジャズの本」で納得していたようだ。

私はというと、ジャズ史の見直しという点に異議は無いものの、若干議論がピンポイント的なところが気になり、より広範な例証を示してくれたならなお一層説得力のあるものとなったように思う。このあたりは村井康司さんら、次世代評論家に課せられた使命だろう。

打ち上げは総勢10名をはるかに超え、いつもの福翔飯店には入りきらず、この店が経営する地下のカラオケスペースを貸し切り、多いに盛り上がった。大学院生の方や元音楽業界の人など、ふだん知り合う機会のない人たちが「音楽愛好家」という一点で出会うこういう場は、ほんとうに貴重だと思う。

なお、ヒップホップに焦点を当てたイヴェントは今後も続く。


いーぐる連続講演 第466回 1月28日(土) 15:30より
●『ヒップホップ講座』
 話題の著書『文化系のためのヒップホップ入門』(アルテスパブリッシング)の著者、長谷川町蔵さんと大和田俊之さんをお招きし、ヒップホップについて音源を聴きながら熱く語っていただきます。
                     解説 長谷川町蔵 × 大和田俊之


柳樂さんによると、大和田さんは私のジャズ本を読んでくれたそうだ。たいへん嬉しく思います。