3月16日(土)

佐藤英輔さんによる講演、大成功! 選曲もよければ、説明も実にナットク。唯一心配なのは、「コレって、結局、英輔さんと私の感覚が近いからじゃない?」という、まあ、説明しようもない嬉しい懸念。というのも、たまたま私が選曲をさせていただいている有線の番組でもオーネット・コールマンの特集を組んだのだが、今回の英輔さんの講演のテーマ『オーネット・コールマン / ハーモロディック再考』の「ハーモロディック以降」のオーネットのリーダー作について言えば、ほぼ100%選曲がかぶっているのだ。

こう言っちゃうと「もう、わかっていることの再確認だった」みたいな受け取り方をされるかもしれないが、それはまったく違います。私はジャズ喫茶店主なので、一応有力ジャズマンのリーダー作はある程度追っているけれど、ロック、ファンク、ブルースなど、隣接領域の音楽ジャンルはごくごく一般的な知識しかない。

1970年代半ば、ハーモロディック以降のオーネットの音楽は、それこそジュジューカとの共演など、民族音楽も含めた影響関係あるいはアイデアの源泉が予想され、「カッコいいけどフシギ」なハーモロ・オーネットの音楽は、考えれば考えるほど「そのネタ、なんなんだ」とハテナマークは広がるばかり。

その辺りのもろもろのギモンに英輔さんは実に明快に応えてくれた。要約すれば、オーネットの生地、南部テキサス、フォートワースの音楽風土、具体的に言えば、The Meters, King Curtisといったミュージシャンたちによる、ブルージーな感覚がオーネットという「フシギ触媒」を通過することによって例のハーモロディック・ミュージックが出来上がるというもの。

で、その影響の源泉も、そして逆にオーネットから影響を受けたジェームス・ブラッド・ウルマー、シャノン・ジャクソン、ジャマラディーン・タクマはじめ、周辺サイドマンたちの音源も、すべてグッド。独特の浮遊感や、蹴躓いたようなしかし小気味良いリズム、そして、ズレが快感を生む奇跡的音楽術など、音楽ってまだまだいろいろ可能性があるんだと心底思い知らされる。

他にも「言われてナットク」は、オーネットはフリー・ジャズの開祖として認識されているが、実は「電気バンド」の時代が一番長い、というもの。そう言われてみればそうなんですよね。でもこういう指摘ってされてみないと気が付きにくい。

また、当日配布されたパンフレットに、英輔さんが『Adlib誌』1996年6月号に寄稿したオーネットのインタビューが掲載されていたが、コレも「そうそう、そうなんだよね」との思いでいっぱい。と言うもの、私もまたオーネットにインタビューをしたことがあるのだが(もしかしたら同じタイミングだったのかも・・・)そのときの印象がまったく英輔さんといっしょ。

独特の禅問答風ハーモロディック解説のワケのわからなさと、オーネット、そして同席したデナードさんの人柄の良さがビシビシ伝わってくる。

こういう名講演のあとの打ち上げは当然のように盛り上がりまくり、ワールド・ミュージック界の大御所、荻原和也さん、関口義人さん、英輔さんに紹介された初対面の方々、TV朝日の立花さんやサンバ・ミュージシャンのカンタス村田さんとサンバマシーンズの面々らと、ディープな音楽話から、実に他愛ない「ちょっと書けない話」まで、気持ち歓談の輪が広がる。音楽ファン至福の一夜でありました。