12月17日(土)

今日は好例の2011年ベスト盤大会といーぐる大忘年会。このところ毎年言うことだが、ここ10年以上、ジャズアルバムで衆目の一致する傑作というようなものは無くなっている。だから10名以上の関係者が紹介する「ベスト盤」がバッティングすることもめったになくなった。

その代わり、まさに「多様性の時代」を象徴するように、さまざまなジャンル、傾向の新譜が聴けるのがこのイヴェントの面白いところと言えるだろう。最初の曲は都合で来られなくなったおおしまさんに代り、私がかけた曲。ジャズ周辺で話題のアルバムだが、改めて聴いてみると実にいろいろな要素が入っていることに驚かされる。もちろん詳しいことはおおしまさんにお聞き願いたいが、ともあれ、現代の音楽の文化背景は単純ではないことを再認識した。

2曲目私がかけたのは、実はいっきさんのブログ情報を基にしたもので、言ってみればカンニング。しかし今のように情報があふれているとき、個人で処理できる分量は限られており、これはと眼をつけた方の新譜情報をご利用させていただくのは、別に間違っているとは思わない。

しかしやはり本家は強く、この対決、ハッキリいっきさんに負けました。というのも、私がかけたRez Abasiのアルバム、サイドのRudresh Mahanthappaが聴きどころなんだけど、後からいっきさんがおかけになったMahanthappa本人のリーダー作の方が明らかに出来がいい。悔しいけど、その場でいっきさんご推薦アルバムの購入を決断いたしました。個人的好みでは、いっきさんご紹介のアルバムが今年のベストです。

須藤さんと村井さんは今年惜しくもなくなったモチアンがらみのセレクト。須藤さんはモチアンの曲をストリングスで演奏した作品。村井さんはご本家モチアン自身のアルバム。どちらも彼の音楽性を反映したある種の陰影感を湛えた深みのある演奏で、改めてモチアンの偉大さを印象付けた。

ロックからワールド・ミュージックまで幅広い知識を誇る音楽評論家、真保さんのベストはケイト・ブッシュ。しみじみとした歌声が心に沁みる。続く田中さんは意外にもジェームス・ブラウン。バックがルイ・ベルソン・オーケストラというところがジャズ繋がりということか。しかし聴いてみるといいのだ。70年代以降のブラウンしか知らないと、60年代のじっくりと歌で聴かせるブラウンの良さに気がつかない。どちらかというと60年代ソウルの方がピンと来る私にはジャスト・フィットでした。

今年ラテンの楽しさ面白さを多面的に教えてくれた伊藤さんのMiguel Zenonは、「プエルトリカン・ソングブック」のタイトルどおりカリブの風を感じさせるジャズ。このところこの手の音楽に馴染んだ私には何の違和感も無く楽しめる。韓国帰りの特派員、佐藤さんは最近韓国で流行っているというイム・ジェボムの歌。かの国の文化背景がわかり、なるほどと思った。

宮尾さんの選んだトニー・ベネットは共演のレディ・ガガがキモ。宮尾さんの解説どおり、彼女の歌はベネットと張り合っても一歩も引けをとっていない。私も気に入りました。そして原田さんが紹介するのは大ベテラン、テナー奏者ハル・シンガー。失礼ながら、エッ、まだ生きてんの、と思ったが、これがいい。原田さんいわく、枯れたというか、半分ヨレたと言うか・・・しかしそのヨレ具合が実にいい味を出している。ちょっとオーネットみたいと勝手に思ってしまいました。

阿部さんは例のごとく(旧録だけど)「今年の新譜」という若干反則気味セレクトながら、演奏がべらぼうにいいので文句は言えない。それにしても調子の乗ったビッグバンドほど聴いていて気持ちのよいものはない。さすが元フルバン、バリサク奏者らしい小気味良い選曲でした。

そして甲府からわざわざ来ていただいたいっきさんは、前述通りの好盤紹介。ほんとうに、ほんとうに、失礼を承知で言えば、一昨年だかのベスト盤紹介のときは、内心「若干ヌルいなあ」と思ったものだったが、この2年でいっきさんの耳はいっきにレベルアップしたよう(オヤジギャグですみません)。マジ脱帽です(これはみなさんの意見でもありました)。

林さんは例のごとくカーク未発表トラックだが、まだまだこの人の隠れ名演があることを改めて実感。山中さんは直球勝負のホンモノ新譜。若手ヴァイヴ奏者ウォーレン・ウルフの新作。ごくごくオーソドックスなアコースティックジャズの現況を伝える秀作。そして本年のトリはパーカー研究家にして熱烈なパーカーフリーク、鈴木さんによるパーカー未発表テイク、《パスポート・トラック8》。鈴木さんによると、ふつうの人には退屈かもしれないが、同じ曲目のテイク違いを聴くとパーカーのソロに対する考え方がわかって面白いとのこと。この気持ちは良くわかる。

ベスト盤大会終了後は好例いーぐる大忘年会。総勢30名を越すお客様方と寿司を食べ、鍋を突きつつ楽しく飲んだワインの空き瓶は何とダンボール2ケースを越えた。深夜に及んだ宴会は沈没者も数名出、いろいろと楽しいハプニングもあったが無事終了。改めて大宴会を取り仕切ってくれた田中さんと彼女を助けた阿部さん、山中さん、須藤さん、宮尾さんに心から感謝いたします。いーぐる忘年会はこの方々のお力が無ければとうていこの盛況はありえません。

ところで、多くの関係者のみなさまがたと楽しくもディープな音楽談義を繰り広げた一夜だったが、このところグラスを交わすことの多くなった原雅明さんと、ヒップホップを巡る実に興味深い話題で大いに盛り上がった。それは「ジャズ耳」ならぬ「白耳」「黒耳」。あまりにも面白いネタなので詳しくは別項(“黒耳”好み、アリーサはthink!)でご紹介しようと思っているが、私としては積年のナゾがまさに眼からウロコ的にパカっと剥がれた思い。そうだよねー、やはりマイルスが生きていたらマッドリブじゃなくってカニエさんだよねー。