3月17日(日)
荻窪、ベルベット・サンに恒例の「ワニ3匹」シリーズを見に行く。今回のゲストは超豪華で、このところ素晴らしい新刊書(『至高の日本ジャズ全史』(集英社新書)『相倉久人のジャズ史夜話 80の物語と160の逸話』(アルテス・パブリッシング)を立て続けに上梓し、ジャズファンの話題を呼んでいる相倉久人さん。今回の趣向は、新著をガイドに相倉さんのお話を聞きつつ、著書に登場する音源を聴くというもの。
ご本人はかつて「宇宙人」を自称してらっしゃったが、いまや仙人の風格を備えた相倉さんの、軽妙かつ実は深い語り口に、それぞれがツワモノ揃いの当日の聴衆深くうなずく。日本のジャズ評論界で最も早い時期にオーネット・コールマン、エリック・ドルフィーらの音楽を正当に評価した相倉さんの見識の確かさは、私たち後輩に深い影響を与えたことをいまさらながら実感。
例のごとく能弁な吉田修一さん、それと対照的な柳樂光隆さん、間に立って音源を紹介しつつ巧みに司会進行する村井康司さんのワニトリオも相倉さんの人柄に魅了され、実に興味深い「その場にいた人間の貴重な話」に耳を傾ける。
個人的に興味深かったのは、相倉さんが「現代音楽」はヨーロッパのもので、ジョン・ケージなどアメリカの音楽家がやったことはむしろ「実験音楽」であったという卓見。そして、来日したケージの公演をすべて見たことや、それに影響された日本の前衛音楽家たちの一部の「誤解」に対する不満など、音楽、文化、アート一般に対する相倉さんの見識の確かさに深く納得。
また、吉田さんが、相倉さんに啓発されたきっかけであるエリック・ドルフィーについて『サックス&ブラス・マガジン』に書いた記事を紹介していたので、さっそく読んでみたが、私の大好きなドルフィー、パーカーの魅力の秘密を、演奏家ならではの具体的かつ説得力のある論旨で分析しており「こういう話を読みたかったんだ」と深く同感。
講演後に吉田さんと立ち話をしたのだが、「演奏家と聴き手」のよき仲立ちをすべき評論が必要ということで意見が一致した。私の見るところ、吉田さんはまさに適役。
3月18日(月)
ブラジル大使館における『ボサノヴァの真実』(彩流社刊)発刊記念記者会見に出席。著者ウィリー・ヲゥーパーさんのお話と、臼田道成さんのボサノヴァ演奏を聴く。
私たちジャズファンは、ボサノヴァをスタン・ゲッツを仲立ちとして親しんできたという歴史がある。しかしウィリーさんによると、従来のボサノヴァ本はゲッツに代表されるアメリカ経由のボサノヴァ紹介が中心で文献の孫引きも多く、本場の状況や、ボサノヴァを生み出したブラジルの風土、文化にまで言及したものは少ないという。
『ボサノヴァの真実』はそうした弊害を一掃しようと、ボサノヴァの生まれた背景、ボサノヴァの定義、ボサノヴァの分類といった基本的事実から、ボサノヴァの知られざるエピソード、今こそ再評価したいボサノヴァのアーチスト、海外に渡ったボサノヴァといった興味深い内容に加え、100枚の名盤ガイドまで付いた親切な構成になっている。
当日会場でブラジル音楽の権威中原仁さんとお会いし、さっそく『いーぐる連続講演』への出演交渉。とりあえず6月29日(土)という日程を決定。これは楽しみ。また、去年濱瀬元彦さんの講演の際お世話になった、ディスク・ユニオンの江利川侑介さんと「いーぐるでウィリーさんのお話を聞きながら、音源を聴く会やってみたいですね」などと立ち話。
江利川さん、動いてください。