1月9日(土曜日)

好例の新春第1弾『いーぐる連続講演』は今年も原田和典さん。出し物はエルヴィン・ジョーンズ特集。原田さんの講演はいつも人気で今回も満員御礼。それは原田さんのジャズへの熱い思いが伝わって来る名解説と選曲の確かさの賜物だ。

それはそうと、このところちょっとジャズの聴き方が変わりつつある、ちょうどそのタイミングでの今回の講演はいろいろと思うところがあった。と言うのも、最近のジャズ・ドラミングは明らかに昔と違っているからだ。

一昔前のドラマーはエルヴィンも含め、やはり「サイドマンとして」見られることが多かった。つまり「コルトレーン・カルテット」の一員としてのエルヴィンという見方だ。ところが最近のドラマーはアントニオ・サンチェスにしろマーク・ジュリアナにしても、むしろドラマーが演奏をコントロールしている場面が目立つ。

もちろん昔だってアート・ブレイキーマックス・ローチなどはバンド・リーダーとしての資質が優れているからこその評価だったが、それでもやはり目立つのはブラウニーなりモーガンといったホーン奏者だった。つまり、みる人が見れば、彼らフロントが冴えるのはバックのドラミングのお陰とわかるという寸法。

ところが近頃のドラミングはより演奏全体に及ぼす影響が大きく、誰が聴いてもドラマーの力量が音楽のクオリティにダイレクトに結びついている。たまたま今回の講演の直前に見たマーク・ジュリアナのグループも、メンバー全員が一体となったグルーヴ感はとんでもないものだったが、明らかにその源泉はジュリアナの抜群のミュージック・センスだった。

そういうドラマー中心に演奏を聴くスタンスで改めてエルヴィンを聴いてみると、彼はずいぶんと特異なドラマーだなあと思った。たとえば、リズム以前に音が他のドラマーとはぜんぜん違う。なんというか一音一音にえらい「弾み」が付いているのだ。ダイナミック・レンジが大きいとも言えるのだが、それはむしろ結果で、どうしたらああいう音が出るのか実に不思議。

その辺りを原田さんに聞いてみたが、エルヴィンは他のドラマーの影響をほとんど語らず、しいて言えば、シャドウ・ウイルソンというどちらかという知名度の低いドラマーの名を挙げた程度だという。

冒頭に紹介されたコルトレーン・カルテットの演奏も凄まじかったが、それ以上に興味深かったのが初期の「地味」と思われていたサッド・ジョーンズのサイドマンとしての演奏。改めてドラミングを中心に聴いてみれば、前述のえらい弾みの付いた、それゆえに強烈なダイナミック・レンジの大きさを実感させるドラミングは既に健在で、明らかにエルヴィンとわかる。

面白いのは「水と油」と思われるコニッツとのトリオ演奏が意外なほどフィットしていること。もちろん『モーション』は昔からの愛聴盤だが、思いのほかエルヴィンは柔軟なのかもしれない。

それにしてもエルヴィンというとコルトレーンの名ばかり挙がるが、彼はコルトレーン・カルテット退団後も活躍しており、70年代以降の演奏もなかなかのもの。しかし当時のファンはどうしてもフロントのホーン奏者に目が行き、結果としてコルトレーンとの「落差」を意識させられたのも事実。この辺りはちょっと不運だったかも。

ともあれ、今回の原田さんの講演はエルヴィンという一風変わったドラマーの足跡を見事に活写した素晴らしいものだった。