●今週末に行われるイヴェントの内容が事前に公開されましたので、お知らせいたします。これはブラック・ミュージック・ファン必聴イヴェントですね!

 

『今聴いてほしいブルース/ソウル/ファンクのメッセージ・ソング』

第657回いーぐる講演 2019年3月23日(土)15時半から 

解説者:高地明、佐藤英輔、濱田廣也(BSR編集長)

 

 

▶︎a) イントロダクション 「初めてブラック・ミュージックのメッセージを強く感じた曲」

1.The Persuasions / Buffalo Soldier(1972年) (Capitol ST-872) ★高地

 バッファロー・ソルジャーとは19世紀にアリゾナとメキシコ国境地帯で任務についた黒人兵隊で、その姿を誇り高く歌う。このアルバムが東芝EMIから国内盤発表された72年に、中村とうようがニューミュージック・マガジンのレコード評で大絶賛し、ストリート・カルチャーとしてのアカペラに大きな注目が集まった。オリジナルは名門ドゥーワップ・グループのザ・フラミンゴス70年作品。

2.Howlin' Wolf / Watergate Blues (1973年) 『The Back Door Wolf』(Chess PLP-844) ★佐藤

 “歌詞なんかどうでもいい”派のスタンスをずっととっておりました。が、この時事ネタ曲には、後追いで聞いておやと思わせられた。“皆、ホワイト・ハウスの奴らの話を聞いたかい?/世界中が知っているよ”と歌われるこの曲を聞いて、半径1キロ外のことを歌うブルースもあるんだと頷いた記憶あり。作者はウルフの曲をいろいろ書いている(BSR誌本特集では、彼の「Coon on the Moon」が紹介されている)サックス奏者のエディ・ショウ。彼はウルフのバンド・リーダーとマネージャーを務めていた。この米国を揺るがす政治スキャンダルはこれを題材とする映画をいくつも生んだのに、カントリー歌手のトム・T・ホールの同名曲(1973年)やフレッド・ウェズリー&ザ・JBズの「Rockin’Funk Watergate」(1974年)などはあるものの、この事件を扱った曲をぼくはあまり知らない。本曲は、ニクソンが辞任して10日以内に即録音された。

3.SYL JOHNSON / Is It Because I'm Black (1969年) 『Complete Mythology』(Numero 032)★濱田

「初めてメッセージを意識した曲」ではないかもしれませんが、タイトルから強い衝撃を受けた曲です。法の上では差別は解消されても現実は全く変わらず、貧困に苦しむ人々。「俺が黒人だからなのか」との問いは「俺はひとりの人間だ」という不屈の宣言でもあります。69年暮れから70年初頭にシングルヒットした曲ですが、今回は7分超のLPヴァージョンを聴いていただきます。

 

▶︎ b) 1920〜40年代 ブルース、ジャズ等、公民権運動が盛んになる前の曲

4.Charley Patton : Tom Rushen Blues (1929年) ( Paramount 12877 / Yazzo LP 1020) ★高地

 ミシシッピ・デルタ・ブルース最重要人物による、農園で働く黒人に対して実際に起こった白人保安官による不当な扱いを歌ったもので、怒りを持って訴えるというよりも、物語として淡々と伝えていく。ブルースが同胞への情報伝達、そして喚起の手段となった最初期の名曲だ。

5.Billie Holiday / Strange Fruit(1939年) 『Billie Holiday』(Commodore UCCC-3008)★佐藤

 米国音楽史上もっとも直裁かつ生理的に辛辣に南部の黒人差別の風景を切り取ったプロテスト・ソング。こんなに悲痛なメッセージを抱えた曲がどれほどあるというのだ。ルイス・アレンという名前でスタンダード系曲も書いた、在NYのユダヤ人牧師にして共産党員だったエイベル・ミーアポルが30年代初頭に新聞記事に載った写真に衝撃を受けて書いた。その後、アフリカン・アメリカンの苦難を背負いまくったような“暗黒の声”を持つホリデイの喉力もあり、広く知られるようになった。ここでかけるのは、“テイク2”ヴァージョン。

6.BIG BILL BROONZY / Black, Brown And White Blues (1947年) 『Blues In The Mississippi Night』(Rounder CD 82161-1860-2) ★濱田

 1920年代から録音のあるビッグ・ビル・ブルーンジーは1930〜40年代に人気の絶頂を迎えたブルース・シンガー/ギタリスト。この曲は2003年に初めて世に出た録音で、人種差別をあからさまに歌った内容から発表を見送られたことが想像できる。タイトルの「ブラック」「ブラウン」「ホワイト」は肌の色を意味し、「ブラック」であることで不当な扱いを受けることを歌っている。

 

▶︎ c) 1950年代〜60年代前半 フリーダム・ソング〜フォークの影響も受けた時代

7.Lightnin’ Hopkins : War Is Starting Again (1961 年)『Lightnin’ Strikes』(Ivory 91272 / Vee Jay LP 1044、1961 年) ★高地

 1950年代の朝鮮戦争、そしてヴェトナム戦争を題材として多くの黒人シンガーが徴兵されていく時事を歌い、テキサス・ブルースの大物ライトニンも世を嘆き訴えた。本作はシングル盤発売され、ブルースがまだまだ黒人底辺社会で声を大きく上げていた実例となる一曲。

8.Little Richard / Tutti Frutti (1955年) 『Here's Little Richard』(Specialty SP-100)。★佐藤

 主旨から離れるかもしれないが、胸を張ってこの曲を選曲。リトル・リチャード、チャック・ベリー、ボー・ディッドリーのロックロール3傑はまさに音楽性は当然のこと、歌詞や物腰においてもコペルニクス的展開的にして規格外。この時代のすっこーんと抜けた彼らの表現は、当時の困難な黒人を取り巻く状況が生んだ最良の生理的反発の裏返しであり(一部、逃避もあるか)、アフリカン・アメリカンの創造性の見事な発露であると考える。そして、そんな表現は白人への訴求力も抜群であった。彼らのR&Rは同胞の地位向上に貢献したとも思う。

9.Go Tell It On The Mountain(1963年) 『Movement Soul』(ESP 1056)★濱田

 1960年代前半の黒人教会や集会場での模様を収めたアルバムからの1曲。いわゆるフィールド・レコーディングで、生々しさがすごい。当時の公民権運動の様子を伝えるものとして選んだ。国を動かすのは民衆の力であることが伝わってくる。このLPは南部各地で録った音源をつないでおり、これはLPのA面の冒頭の部分になる。

 

▶︎ d)1960年代後半 「ソウル勃興」から「ブラック・パワー」の時代

10.J.B. LENOIR / Alabama Blues (1965年) 『Alabama Blues』(CBS 62593)★濱田

 J.B.ルノアーは、社会的な題材を歌詞に込めたブルース・シンガー/ギタリストとして知られる。1965年5月5日に録音されたこの曲は、同年2月アラバマ州セルマでの公民権を求めるデモ行進で警察の暴力によって多数の犠牲者が出たことに対する怒りを歌ったものであろう。その内容からかこのアルバムは当初本国アメリカでは発売されなかった。

11.Little Milton / We’re Gonna Make It (1965 年) (Checker 1105 / LP 2995) ★高地

 仕事を見つけるのも難しく、配給の列に並ばざるを得ない生活。そこで「みんなで力を合わせれば乗り越えらえる」なんて、現実問題として軟な意識かもしれないが、モダン・ブルースの王者ミルトンの歌の並外れた訴求力で1965年にR&Bチャート連続三週トップという大きな共感を得た。ドラムスはモーリス・ホワイト、ベースはルイス・サタフィールドという後のEWFの中心人物となる二人が支える賛同ビートも快感。

12.JAMES BROWN / Say It Loud, I'm Black And I'm Proud (1968年) 『Say It Live And Loud: Live In Dallas 08.26.68』(Polydor 31455 7668-2) ★濱田

 1960年代後半に高まった「ブラック・パワー運動」は、黒人であることを誇りとし、黒人の独立自尊を訴えた運動だった。ジェイムズ・ブラウンのこの曲は「ブラック・パワー」を象徴するメッセージ・ソングとして知られている。今回聴いていただくのは1968年8月26日、テキサス州ダラスでのライヴ録音。

13.Roebuck Pops Staples / Black Boy (1969年) (Stax STA-0064) ★高地 

 メッセージ・ソウルの代表的家族グループ、ザ・ステイプル・シンガーズのリーダーであり家長であるポップス・ステイプルズによるソロ作品で、その学校にとって初めての黒人生徒となる少年の初登校日に起こった出来事とその心情を綴っていく。ポップスを師と仰ぐダニー・ハサウェイのエレピも煽りまくり、コーラスに加わる娘メイヴィスの声援の熱さもすごい。

14.Gil Scott-Heron / Evolution(And Flashback) (1970年) 『Small Talk 125th and Lenox』(Flying Dutchman BVCJ-1015) ★佐藤

 ジャズ・ポエットとして世に出たヘロンのファースト作から。レーベルのフライング・ダッチマンはジャズ重要レーベル“インパルス!”のプロデューサーだったボブ・シールは起こしたレーベルだ。ハーレムの中心地の住所である『Small Talk 125th and Lenox』と名付けた詩集を材料にリーディングする模様を収めた、素の実況盤。マルコムXキング牧師の名前を出しつつ、黒人の自立意識をビターに説いている。こういうライヴの場が当時は有効であったのか。

15.Donny Hathaway / Magnificent Sanctuary Band (1971年)『Donny Hathaway』(Atlantic SD33-360) ★佐藤

 頭のドラム音から胸高鳴り、肯定的な気分に満ちる。平等を求める行進を祝福するこの曲は、まだ黒人社会やダニーに希望があったことを伝える。オリジナルはロカビリー歌手のドーシー・バーネットが1970年に発表。なお、ドラマーのハーヴィー・メイソンの1975年曲「マーチング・イン・ザ・ストリート」(アリスタ)はこれへの返歌だ。

 

▶︎ e)1970年代 公民権法成立後の困難〜ゲットー、ベトナム帰還兵といった問題を扱う

16.Roland Kirk/ What’s Goin’ On ~ Mercy Mercy Me (The Ecology) (1971年) 『Blacknus 』 Atlantic SD1601) ★高地

 マーヴィン・ゲイの71年の大ヒットとなったモータウンの二曲は世を動かし、それにブラック・ミュージックのもう一つの大レーベルであるアトランティックも応えた。ブラック・ジャズの権化となるローランド・カークとアトランティックが誇るスタジオ・ミュージシャンが総出で暴れまくった痛快ファンク。

17.ROY C / Open Letter To The President (1971年) (Alaga AL-1006) ★濱田

 ハニードリッパーズ名義での “Impeach The President”他、メッセージ・ソングが多数あるロイ・Cは、1960年代から活躍するシンガー/ソングライター。この「大統領への公開状」ではベトナム戦争からの撤退や貧困家庭の問題を訴え、さらには当時の南アフリカの人種差別にも言及している。歌い出しはインプレッションズの“People Get Ready”を受けており、60年代からのつながりを感じさせる。

18.BOBBY PATTERSON / This Whole Funky World Is A Ghetto (1972年) 『It's Just A Matter Of Time』(Paula LPS 2215)★濱田

 テキサス州ダラス出身のボビー・パタースンは1960年代後半にデビュー、これは彼にとって初のアルバムからの1曲。黒人の貧困層が住む「ゲットー」の問題は70年代に入っても改善は見られず、多くのシンガーやミュージシャンが作品の中で訴えている。この曲では犯罪に溢れるゲットーの現状を描きながら、改善の道を探ろうと歌う。

19.Sly & The Family Stone / Let Me Have It All (1973年) 『Fresh』(Epic MHCP-1307)★佐藤

 スライ・ストーンは魔法のような混合サウンド作りとともに、言葉使いの天才でもあり、それゆえ秀でたメッセージを持つ曲をたくさん発表している。彼が素晴らしいのは同胞に向けて“スタンド”を促す際に、ポジティヴでリベラルな視点をしっかりと携えていたこと。だが、この1973年作になると、その塩梅がだいぶ変わり、絶望の情が前に出てくる。“僕に全てをください”と懇願する内容のこの曲も、音楽的に洗練されたコーラスや管音とあいまって諦観の念が大きく横たわっていると感じてならない。“なんかとなるさ=どうでもいいや”と歌われる「ケ・セラ・セラ」の名カヴァーもこのアルバムに収録。

20.Taj Mahal/ West Indian Revelation(1975年) 『 Music Keeps Me Together (Columbia PC 33801)★高地

 70年代に入ってようやく我々も気づいた、カリブ/アフリカでの闘争行動そのものとなった音楽の勃興、それにアメリカン・ルーツ・ミュージックを探っていたタジも目覚め、サード・ワールドへと拡がるアメリカ黒人意識を表わした傑作。

21.Swamp Dogg / Call Me Nigger (1976年)『Swamp Dogg’s Greatest Hits?』(Stone Dogg RVP-6164) ★佐藤

 知性もどこか感じさせる変調ソウル・シンガー/ソングライターとして知られるスワンプ・ドッグの面目躍如な1曲。ニガーだろうとブラックだろうと、おまえらの好きなように呼べ。おいらは気にしねえ。ただし、前に進むおいらの邪魔をするんじゃねえ。といった文言から始まる歌は、もう白人への罵詈雑言が7分にわたって鬼のように綴られる。今や対決あるのみ。単語の数の多さは、その思いを伝えよう。収録作はもちろんオリジナル・アルバムで、アルバム表題は洒落。

 

(f)年代順[5]1980年代以降 

22.Chuck Brown & the Soul Searchers / We Need Some Money(1984年) 『Go Go Crankin’』(T.T.E.D./Island DCLP 100) ★佐藤

 “チョコレート・シティたる”ワシントンD.C.のファンク/ゴー・ゴー界のヴェテランのシンガー/ギタリストの当たり曲。現金ばんざいという率直さとともに、クレジット・カード=白人のシステムなんか俺たちには関係ねえという反骨精神が爽快に爆発。我々には俺たちの流儀がある! こういうガラっぱちなヴァイタリティこそ、ぼくが米国黒人音楽に求める最たる美点であるのだ。

23.SHERWOOD FLEMING / History (2015年) 『Blues Blues Blues』(KTI KTIC-1016)★濱田

 1960年代後半からいくつかシングルを発表していたシャーウッド・フレミングが2015年に78歳で発表した衝撃のアルバムからの1曲。その年齢から「枯れた味わいのブルース」を想像したら痛い目にあう。これは1992年の「ロサンゼルス暴動」に発展する「ロドニー・キング事件」に対しての怒りが生んだポエトリーで、タイトルの「歴史」とは黒人が歩んできた苦難の道であり、語り継いでいかなければならないものだ。

24.Robert Cray & Hi Rhythm : Just How Low (2017年) (Jay-Vee Records JV2017LP) ★高地

 イントロで”Hail To The Chief”(大統領万歳)をギターで奏で、マーチのようにそれを煽るドラムスが、まるで監獄で鎖に繋がれた人間の行進のようなビートとなってくる、異様なファンク・ブルースである。トランプ大統領による乱政へ抗議であり、呪いをかけるかのようなサウンドとビート自体が凄まじい。 (ブルース&ソウル・レコード136号CD評より)