BRUTUS】が面白い!

 

今ジャズが「来て」いるようですね。『文学界』に続いて『BRUTUS』まで素敵なジャズ特集を出すとは! 

この状況、だいぶ前から予感はありました。いささか手前味噌ですが、私が監修した小学館のCD付ムック『JAZZ 100年』シリーズは総計118巻、累積販売280万部という異例のヒット。現在新星堂さんから出していただいているコンピレーションCDシリーズ『四谷いーぐるが選ぶジャズ喫茶のジャズ』はおかげさまで現在8巻を数え、また、つい最近私が監修させていただいた『ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)も、発売わずか2ヵ月で重版となりました。

海外に目を移せば、従来日本独自と言われて来た「ジャズ喫茶」が諸外国の熱心なオーディオ・マニアの眼にとまり、すでにアメリカ、ヨーロッパ、アジアなど、世界各地に吟味されたオーディオ装置でじっくりジャズを聴くという、日本の「ジャズ喫茶」にインスパイアーされたスタイルの店舗が何軒も誕生しているのです。

そしてもちろん、ジャズ・シーン自体が活気に満ちている。ごく最近私が観たライヴを-ふり返ってみても、挟間美帆、上原ひろみ、マーク・ジュリアナ、シャバカ・ハッチングス、ブラッド・メルドー、そして『BRUTUS』最新号の表紙にもなっているロバート・グラスパーなど、どれも若い世代のお客様方で満員盛況、当然内容も素晴らしい。

そしてとりわけ嬉しかったのは、『BRUTUS』の編集内容がこうした現代ジャズの活況を極めて正確にトレースしているのですね。従来ジャズ雑誌以外のメディアのジャズ特集号は相変らずマイルス、コルトレーンで、間違ってはいないものの完全に後ろ向きの編集方針でした。そういう紹介の方され方だと、「ジャズは過去のレトロ趣味の音楽」と受けとられかねず、実際そう思われてきたフシもうかがえるのです。

それが現代ジャズの牽引車ロバート・グラスパーが楽し気にピアノを弾いている表紙に大きく「JAZZ is POP!」というコピーが躍っている。まさに我が意を得たりという気分でした。というのも、私が監修した『ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)では、「入門書」としては破格の扱いでグラスパーはじめカマシ・ワシントン、シャバカ・ハッチングス、ダニー・マッキャスリンといった現代ジャズのヒーローたちを紹介しているのですね。

そして私はこの本で現代ジャズの特徴を「ポピュラリティを恐れない自己表現をするミュージシャンが増大している」として、グラスパー、カマシらを紹介しているのです。ですから、あたかもグラスパーが「JAZZ is POP!」とファンに語りかけているような『BRUTUS』の表紙は、まさに私が言いたかったことを代弁している。

それにしてもここまで行き届いた編集が成されていることに驚きつつページをめくれば、さもありなんということが見えてきました。以前から「ジャズ・ザ・ニュー・チャプター」略称「J.T.N.T」で現代ジャズの動向をつぶさに紹介して来た柳楽光隆さんが編集方針に深く関わっていたようなのですね。彼はミュージシャンの生の声を正確に届けるという、ジャズ・ジャーナリズムの原点を忠実に押さえ、ニューヨークそしてU.K.などのジャズ状況をリアル・タイムで伝えて来たのですが、その原則が『BRUTUS』でも生かされている。

個人的に興味深かったのは、つい最近アルバムを聴いて驚き、私が制作している有線のジャズ番組選曲に取り入れた中村海斗の紹介記事ですね。彼の新譜『BLAQUE DAWN』は文句なしに素晴らしく、どなたにもお薦めできる傑作。また、Charaの「家でアイロンがけするときにジャズのプレイ・リストを作っている」という話が面白過ぎる。これまたいささか手前味噌なのですが、私が監修しているコンピレーション・ジャズCD『ジャズ喫茶のジャズ』シリーズは、自宅でくつろぎながらジャズを楽しんでいただくというコンセプトなので、まさにアイロンがけしつつ聴いてほしいアルバムなのですね。

ともあれ、これほど完成度の高い現代ジャズ紹介雑誌は初めてなので、雑誌が生きるか死ぬかは事情をよく知った有能なアドバイザーの存在に係っていることが顕在化したケースとも言えるでしょう。