● イヴェント告知

 

  • 4月20日(土曜日) 午後3時30分より 参加費800円+飲食代金

 

「レコードコレクターズ」2019年5月号連動企画

「1969年のジャズを聴く〜ジャズの50年は長かったのか?」

 

雑誌「レコードコレクターズ」5月号の特集は「1969年の音楽地図」。各ジャンルの音楽について、69年を代表するアルバムを選定・解説し、あわせて69年のそのジャンルの状況を俯瞰する特集です。ジャズ部門を担当した村井康司が、69年にリリースされたアルバムを紹介しつつ、50年前のジャズと「今」のジャズの関係を探ります。

 

出演:村井康司(音楽評論家)

 

 

 

 

 

  • 予約開始

 

『ジャズ講談とライヴ映像でカークに酔え!』

 

5月11日(土) 開場:14時 開演:15時 終演:17時頃 進行:林 建紀

予約制(メール申し込み、詳しくは後述) 全席自由席(来場順)

入場料:2000円(税込) 当日、受付でご人数分をお支払いください。

飲食代:別途 退場時にレジでお支払いください。

 

第1部 ライヴ映像 「ローランド・カーク・ライヴ・アット・モントルー1972」

第2部 ジャズ講談 旭堂南湖ローランド・カーク一代記」

 

第1部では数あるカーク・ライヴの最高峰であるばかりかジャズ史上の傑作ライヴとして名高いライヴ映像「ライヴ・アット・モントルー1972」をノーカット(50分)でご覧いただきます。カークの疾風怒涛のパフォーマンスを迫力の大画面とサウンドでご堪能ください。

 

第2部では関西講談界の雄、旭堂南湖先生をお招きしてジャズ講談「ローランド・カーク一代記」を関東では初上演となるロングバージョン(30分)でお聞きいただきます。卓越した話芸により活き活きと描き出すカークの波乱の生涯をお楽しみください。

 

※開場から終演まで全面禁煙(紙巻きタバコも電子タバコも)とさせていただきます。

 

【ご予約】

※定員になり次第締め切りますので、必ずご予約ください。

※メールの件名に「イベント予約」、本文に「ご氏名、フリガナ、ご人数」をご明記のうえ、

 infotec@cyber.ocn.ne.jpまでご送信ください。12時間以内に予約確認メールをご返信します。

※12時間以内に返信のない場合は送信先/送信元アドレスや受信拒否設定をご確認ください。

※予約に関する当店へのお問い合わせはご遠慮ください。

 

 

いーぐる  新宿区四谷1-8ホリナカビルB1F 3357-9857

  • 4月13日(土曜日) 午後3時30分より 参加費800円+飲食代金

 

『万能の巨匠、アンドレ・プレヴィン(1929~2019年)』

 

何でも器用にこなす人を「職人」と呼んで蔑む風潮が日本にはある。映画音楽からオペラまで、ジャズ・ピアノからモーツァルトの協奏曲まで向かうところ敵無しというアンドレ・プレヴィンは、こうした無理解な、逆に言えば聴き手の偏狭さ故に過小評価されてきた傾向無しとしない。

2月28日に89歳でアンドレ・プレヴィンが亡くなった。

今月6日に90歳を迎える直前だった。

18歳でハリウッドの大手映画会社MGMの音楽スタッフとなり、1950年代にはジャズ・ピアニストとして活躍。ピエール・モントゥーに指揮を学び、1967年にクラシック界にデビュー。アメリカ国内をはじめ、ロンドン、ウィーン、ベルリンなどヨーロッパ一流のオーケストラで

指揮者、ピアニストとして活躍。

作曲にも秀で、オペラ、歌曲集、ヴァイオリン、チェロ、ギターのための協奏曲等を残した。

連続講演では彼のこうした万能ぶりを、ジャズ演奏、映画音楽、クラシック・ピアノ管弦楽指揮、エラ・フィッツジェラルドをはじめとするヴォーカリストとの共演を聴き明らかにしていく。

映像はコール・ポーターのミュージカル『絹の靴下』、アカデミー賞ミュージカル編曲賞を獲った『マイ・フェア・レディー』の一部をご覧に入れる予定。

プレヴィンがジャズを含む幅広い音楽に残した業績を顕彰し追悼の会としたい。

 

解説  小針俊郎

 

 

 

  • 4月20日(土曜日) 午後3時30分より 参加費800円+飲食代金

 

「レコードコレクターズ」2019年5月号連動企画

「1969年のジャズを聴く〜ジャズの50年は長かったのか?」

 

雑誌「レコードコレクターズ」5月号の特集は「1969年の音楽地図」。各ジャンルの音楽について、69年を代表するアルバムを選定・解説し、あわせて69年のそのジャンルの状況を俯瞰する特集です。ジャズ部門を担当した村井康司が、69年にリリースされたアルバムを紹介しつつ、50年前のジャズと「今」のジャズの関係を探ります。

 

出演:村井康司(音楽評論家)

 

 

 

 

 

  • スペシャルイベント予告 4月11日予約受付開始

 

 

『ジャズ講談とライヴ映像でカークに酔え!』(仮題)

 

5月11日(土) 開場:14時 開演:15時 終演:17時頃 進行:林 建紀

予約制(メール申し込み) 全席自由席(来場順)

入場料:2000円 当日受付時にお支払いください。

飲食代:別途  退場時にレジでお支払いください。

 

第1部 ライヴ映像 「ローランド・カーク・ライヴ・アット・モントルー1972」

第2部 ジャズ講談 旭堂南湖ローランド・カーク一代記」

 

第1部では数あるカーク・ライヴの最高峰であるばかりかジャズ史上の傑作ライヴとして名高いライヴ映像「ライヴ・アット・モントルー1972」をノーカット(50分)でご覧いただきます。カークの疾風怒涛のパフォーマンスを迫力の大画面とサウンドでご堪能ください。

 

第2部では関西講談界の雄、旭堂南湖先生をお招きしてジャズマンの伝記「ローランド・カーク一代記」をロングバージョン(30分、関東初上演)でお聞きいただきます。卓越した話芸により活き活きと描き出すカークの波乱の生涯をお楽しみください。

 

【ご注意!】

※連続講演とは異なりメールでのご予約が必要です。

 4月11日(土)予約受付開始 当日、アドレスを本掲示板と店主のブログでお知らせします。

 予約に関する当店へのお問い合わせはご遠慮ください。

※開演中は休憩時間も含め全面禁煙(紙巻きタバコも電子タバコも)とさせていただきます。

●今週末に行われるイヴェントの内容が事前に公開されましたので、お知らせいたします。これはブラック・ミュージック・ファン必聴イヴェントですね!

 

『今聴いてほしいブルース/ソウル/ファンクのメッセージ・ソング』

第657回いーぐる講演 2019年3月23日(土)15時半から 

解説者:高地明、佐藤英輔、濱田廣也(BSR編集長)

 

 

▶︎a) イントロダクション 「初めてブラック・ミュージックのメッセージを強く感じた曲」

1.The Persuasions / Buffalo Soldier(1972年) (Capitol ST-872) ★高地

 バッファロー・ソルジャーとは19世紀にアリゾナとメキシコ国境地帯で任務についた黒人兵隊で、その姿を誇り高く歌う。このアルバムが東芝EMIから国内盤発表された72年に、中村とうようがニューミュージック・マガジンのレコード評で大絶賛し、ストリート・カルチャーとしてのアカペラに大きな注目が集まった。オリジナルは名門ドゥーワップ・グループのザ・フラミンゴス70年作品。

2.Howlin' Wolf / Watergate Blues (1973年) 『The Back Door Wolf』(Chess PLP-844) ★佐藤

 “歌詞なんかどうでもいい”派のスタンスをずっととっておりました。が、この時事ネタ曲には、後追いで聞いておやと思わせられた。“皆、ホワイト・ハウスの奴らの話を聞いたかい?/世界中が知っているよ”と歌われるこの曲を聞いて、半径1キロ外のことを歌うブルースもあるんだと頷いた記憶あり。作者はウルフの曲をいろいろ書いている(BSR誌本特集では、彼の「Coon on the Moon」が紹介されている)サックス奏者のエディ・ショウ。彼はウルフのバンド・リーダーとマネージャーを務めていた。この米国を揺るがす政治スキャンダルはこれを題材とする映画をいくつも生んだのに、カントリー歌手のトム・T・ホールの同名曲(1973年)やフレッド・ウェズリー&ザ・JBズの「Rockin’Funk Watergate」(1974年)などはあるものの、この事件を扱った曲をぼくはあまり知らない。本曲は、ニクソンが辞任して10日以内に即録音された。

3.SYL JOHNSON / Is It Because I'm Black (1969年) 『Complete Mythology』(Numero 032)★濱田

「初めてメッセージを意識した曲」ではないかもしれませんが、タイトルから強い衝撃を受けた曲です。法の上では差別は解消されても現実は全く変わらず、貧困に苦しむ人々。「俺が黒人だからなのか」との問いは「俺はひとりの人間だ」という不屈の宣言でもあります。69年暮れから70年初頭にシングルヒットした曲ですが、今回は7分超のLPヴァージョンを聴いていただきます。

 

▶︎ b) 1920〜40年代 ブルース、ジャズ等、公民権運動が盛んになる前の曲

4.Charley Patton : Tom Rushen Blues (1929年) ( Paramount 12877 / Yazzo LP 1020) ★高地

 ミシシッピ・デルタ・ブルース最重要人物による、農園で働く黒人に対して実際に起こった白人保安官による不当な扱いを歌ったもので、怒りを持って訴えるというよりも、物語として淡々と伝えていく。ブルースが同胞への情報伝達、そして喚起の手段となった最初期の名曲だ。

5.Billie Holiday / Strange Fruit(1939年) 『Billie Holiday』(Commodore UCCC-3008)★佐藤

 米国音楽史上もっとも直裁かつ生理的に辛辣に南部の黒人差別の風景を切り取ったプロテスト・ソング。こんなに悲痛なメッセージを抱えた曲がどれほどあるというのだ。ルイス・アレンという名前でスタンダード系曲も書いた、在NYのユダヤ人牧師にして共産党員だったエイベル・ミーアポルが30年代初頭に新聞記事に載った写真に衝撃を受けて書いた。その後、アフリカン・アメリカンの苦難を背負いまくったような“暗黒の声”を持つホリデイの喉力もあり、広く知られるようになった。ここでかけるのは、“テイク2”ヴァージョン。

6.BIG BILL BROONZY / Black, Brown And White Blues (1947年) 『Blues In The Mississippi Night』(Rounder CD 82161-1860-2) ★濱田

 1920年代から録音のあるビッグ・ビル・ブルーンジーは1930〜40年代に人気の絶頂を迎えたブルース・シンガー/ギタリスト。この曲は2003年に初めて世に出た録音で、人種差別をあからさまに歌った内容から発表を見送られたことが想像できる。タイトルの「ブラック」「ブラウン」「ホワイト」は肌の色を意味し、「ブラック」であることで不当な扱いを受けることを歌っている。

 

▶︎ c) 1950年代〜60年代前半 フリーダム・ソング〜フォークの影響も受けた時代

7.Lightnin’ Hopkins : War Is Starting Again (1961 年)『Lightnin’ Strikes』(Ivory 91272 / Vee Jay LP 1044、1961 年) ★高地

 1950年代の朝鮮戦争、そしてヴェトナム戦争を題材として多くの黒人シンガーが徴兵されていく時事を歌い、テキサス・ブルースの大物ライトニンも世を嘆き訴えた。本作はシングル盤発売され、ブルースがまだまだ黒人底辺社会で声を大きく上げていた実例となる一曲。

8.Little Richard / Tutti Frutti (1955年) 『Here's Little Richard』(Specialty SP-100)。★佐藤

 主旨から離れるかもしれないが、胸を張ってこの曲を選曲。リトル・リチャード、チャック・ベリー、ボー・ディッドリーのロックロール3傑はまさに音楽性は当然のこと、歌詞や物腰においてもコペルニクス的展開的にして規格外。この時代のすっこーんと抜けた彼らの表現は、当時の困難な黒人を取り巻く状況が生んだ最良の生理的反発の裏返しであり(一部、逃避もあるか)、アフリカン・アメリカンの創造性の見事な発露であると考える。そして、そんな表現は白人への訴求力も抜群であった。彼らのR&Rは同胞の地位向上に貢献したとも思う。

9.Go Tell It On The Mountain(1963年) 『Movement Soul』(ESP 1056)★濱田

 1960年代前半の黒人教会や集会場での模様を収めたアルバムからの1曲。いわゆるフィールド・レコーディングで、生々しさがすごい。当時の公民権運動の様子を伝えるものとして選んだ。国を動かすのは民衆の力であることが伝わってくる。このLPは南部各地で録った音源をつないでおり、これはLPのA面の冒頭の部分になる。

 

▶︎ d)1960年代後半 「ソウル勃興」から「ブラック・パワー」の時代

10.J.B. LENOIR / Alabama Blues (1965年) 『Alabama Blues』(CBS 62593)★濱田

 J.B.ルノアーは、社会的な題材を歌詞に込めたブルース・シンガー/ギタリストとして知られる。1965年5月5日に録音されたこの曲は、同年2月アラバマ州セルマでの公民権を求めるデモ行進で警察の暴力によって多数の犠牲者が出たことに対する怒りを歌ったものであろう。その内容からかこのアルバムは当初本国アメリカでは発売されなかった。

11.Little Milton / We’re Gonna Make It (1965 年) (Checker 1105 / LP 2995) ★高地

 仕事を見つけるのも難しく、配給の列に並ばざるを得ない生活。そこで「みんなで力を合わせれば乗り越えらえる」なんて、現実問題として軟な意識かもしれないが、モダン・ブルースの王者ミルトンの歌の並外れた訴求力で1965年にR&Bチャート連続三週トップという大きな共感を得た。ドラムスはモーリス・ホワイト、ベースはルイス・サタフィールドという後のEWFの中心人物となる二人が支える賛同ビートも快感。

12.JAMES BROWN / Say It Loud, I'm Black And I'm Proud (1968年) 『Say It Live And Loud: Live In Dallas 08.26.68』(Polydor 31455 7668-2) ★濱田

 1960年代後半に高まった「ブラック・パワー運動」は、黒人であることを誇りとし、黒人の独立自尊を訴えた運動だった。ジェイムズ・ブラウンのこの曲は「ブラック・パワー」を象徴するメッセージ・ソングとして知られている。今回聴いていただくのは1968年8月26日、テキサス州ダラスでのライヴ録音。

13.Roebuck Pops Staples / Black Boy (1969年) (Stax STA-0064) ★高地 

 メッセージ・ソウルの代表的家族グループ、ザ・ステイプル・シンガーズのリーダーであり家長であるポップス・ステイプルズによるソロ作品で、その学校にとって初めての黒人生徒となる少年の初登校日に起こった出来事とその心情を綴っていく。ポップスを師と仰ぐダニー・ハサウェイのエレピも煽りまくり、コーラスに加わる娘メイヴィスの声援の熱さもすごい。

14.Gil Scott-Heron / Evolution(And Flashback) (1970年) 『Small Talk 125th and Lenox』(Flying Dutchman BVCJ-1015) ★佐藤

 ジャズ・ポエットとして世に出たヘロンのファースト作から。レーベルのフライング・ダッチマンはジャズ重要レーベル“インパルス!”のプロデューサーだったボブ・シールは起こしたレーベルだ。ハーレムの中心地の住所である『Small Talk 125th and Lenox』と名付けた詩集を材料にリーディングする模様を収めた、素の実況盤。マルコムXキング牧師の名前を出しつつ、黒人の自立意識をビターに説いている。こういうライヴの場が当時は有効であったのか。

15.Donny Hathaway / Magnificent Sanctuary Band (1971年)『Donny Hathaway』(Atlantic SD33-360) ★佐藤

 頭のドラム音から胸高鳴り、肯定的な気分に満ちる。平等を求める行進を祝福するこの曲は、まだ黒人社会やダニーに希望があったことを伝える。オリジナルはロカビリー歌手のドーシー・バーネットが1970年に発表。なお、ドラマーのハーヴィー・メイソンの1975年曲「マーチング・イン・ザ・ストリート」(アリスタ)はこれへの返歌だ。

 

▶︎ e)1970年代 公民権法成立後の困難〜ゲットー、ベトナム帰還兵といった問題を扱う

16.Roland Kirk/ What’s Goin’ On ~ Mercy Mercy Me (The Ecology) (1971年) 『Blacknus 』 Atlantic SD1601) ★高地

 マーヴィン・ゲイの71年の大ヒットとなったモータウンの二曲は世を動かし、それにブラック・ミュージックのもう一つの大レーベルであるアトランティックも応えた。ブラック・ジャズの権化となるローランド・カークとアトランティックが誇るスタジオ・ミュージシャンが総出で暴れまくった痛快ファンク。

17.ROY C / Open Letter To The President (1971年) (Alaga AL-1006) ★濱田

 ハニードリッパーズ名義での “Impeach The President”他、メッセージ・ソングが多数あるロイ・Cは、1960年代から活躍するシンガー/ソングライター。この「大統領への公開状」ではベトナム戦争からの撤退や貧困家庭の問題を訴え、さらには当時の南アフリカの人種差別にも言及している。歌い出しはインプレッションズの“People Get Ready”を受けており、60年代からのつながりを感じさせる。

18.BOBBY PATTERSON / This Whole Funky World Is A Ghetto (1972年) 『It's Just A Matter Of Time』(Paula LPS 2215)★濱田

 テキサス州ダラス出身のボビー・パタースンは1960年代後半にデビュー、これは彼にとって初のアルバムからの1曲。黒人の貧困層が住む「ゲットー」の問題は70年代に入っても改善は見られず、多くのシンガーやミュージシャンが作品の中で訴えている。この曲では犯罪に溢れるゲットーの現状を描きながら、改善の道を探ろうと歌う。

19.Sly & The Family Stone / Let Me Have It All (1973年) 『Fresh』(Epic MHCP-1307)★佐藤

 スライ・ストーンは魔法のような混合サウンド作りとともに、言葉使いの天才でもあり、それゆえ秀でたメッセージを持つ曲をたくさん発表している。彼が素晴らしいのは同胞に向けて“スタンド”を促す際に、ポジティヴでリベラルな視点をしっかりと携えていたこと。だが、この1973年作になると、その塩梅がだいぶ変わり、絶望の情が前に出てくる。“僕に全てをください”と懇願する内容のこの曲も、音楽的に洗練されたコーラスや管音とあいまって諦観の念が大きく横たわっていると感じてならない。“なんかとなるさ=どうでもいいや”と歌われる「ケ・セラ・セラ」の名カヴァーもこのアルバムに収録。

20.Taj Mahal/ West Indian Revelation(1975年) 『 Music Keeps Me Together (Columbia PC 33801)★高地

 70年代に入ってようやく我々も気づいた、カリブ/アフリカでの闘争行動そのものとなった音楽の勃興、それにアメリカン・ルーツ・ミュージックを探っていたタジも目覚め、サード・ワールドへと拡がるアメリカ黒人意識を表わした傑作。

21.Swamp Dogg / Call Me Nigger (1976年)『Swamp Dogg’s Greatest Hits?』(Stone Dogg RVP-6164) ★佐藤

 知性もどこか感じさせる変調ソウル・シンガー/ソングライターとして知られるスワンプ・ドッグの面目躍如な1曲。ニガーだろうとブラックだろうと、おまえらの好きなように呼べ。おいらは気にしねえ。ただし、前に進むおいらの邪魔をするんじゃねえ。といった文言から始まる歌は、もう白人への罵詈雑言が7分にわたって鬼のように綴られる。今や対決あるのみ。単語の数の多さは、その思いを伝えよう。収録作はもちろんオリジナル・アルバムで、アルバム表題は洒落。

 

(f)年代順[5]1980年代以降 

22.Chuck Brown & the Soul Searchers / We Need Some Money(1984年) 『Go Go Crankin’』(T.T.E.D./Island DCLP 100) ★佐藤

 “チョコレート・シティたる”ワシントンD.C.のファンク/ゴー・ゴー界のヴェテランのシンガー/ギタリストの当たり曲。現金ばんざいという率直さとともに、クレジット・カード=白人のシステムなんか俺たちには関係ねえという反骨精神が爽快に爆発。我々には俺たちの流儀がある! こういうガラっぱちなヴァイタリティこそ、ぼくが米国黒人音楽に求める最たる美点であるのだ。

23.SHERWOOD FLEMING / History (2015年) 『Blues Blues Blues』(KTI KTIC-1016)★濱田

 1960年代後半からいくつかシングルを発表していたシャーウッド・フレミングが2015年に78歳で発表した衝撃のアルバムからの1曲。その年齢から「枯れた味わいのブルース」を想像したら痛い目にあう。これは1992年の「ロサンゼルス暴動」に発展する「ロドニー・キング事件」に対しての怒りが生んだポエトリーで、タイトルの「歴史」とは黒人が歩んできた苦難の道であり、語り継いでいかなければならないものだ。

24.Robert Cray & Hi Rhythm : Just How Low (2017年) (Jay-Vee Records JV2017LP) ★高地

 イントロで”Hail To The Chief”(大統領万歳)をギターで奏で、マーチのようにそれを煽るドラムスが、まるで監獄で鎖に繋がれた人間の行進のようなビートとなってくる、異様なファンク・ブルースである。トランプ大統領による乱政へ抗議であり、呪いをかけるかのようなサウンドとビート自体が凄まじい。 (ブルース&ソウル・レコード136号CD評より)

 

 

 

 

 

先週末に行われた原田和典さんによる待望の新著『コテコテ・サウンド・マシーン』(スペースネットワーク刊)発売記念講演、良い意味でいろいろと予想を裏切る好イヴェントだった。

 

予想外の第一は、新著の印刷上がり日程がわかったのがイヴェント開催日直前、そのため告知期間はわずか10日ほど。ふつう、こうしたケースでは参加したくても既に他のスケジュールが入っているファンが多く、どうしても集客数が限られてしまうものなのだ。それにもかかわらず来客数の多さに驚かされたのだった。通常20名を超せば盛況のイヴェント来客数に対し、何と36名もおいでいただき、客席は満杯。

 

予想外の第2は客層。新著のタイトル「コテコテ」というキャッチ・フレーズは今から20年以上も昔、1995年に「ジャズ批評」社から刊行された『コテコテ・デラックス~GROOVE,FUNK&SOUl』にちなんでいる。発売当時この本は大いに話題となったものだった。とは言え、この名著を知るファンは今や完全なオジサン世代だ。

 

そうしたいきさつもあり、また私の個人的思い込みかもしれないが「今どき」ディープなブラック・ミュージックを愛好するファンはそうとうマニアックな方々(要するにオジサンたち)ではないかと思い込んでいた。しかし予想に反し、お客様の半数以上が若いお洒落な女性客なのだ。どうやら私などが知らないところで、若い女性音楽ファンがブラック・ミュージックに惹かれているらしい。余談ながら、このところわが「いーぐる」も女性客が目に見えて増えている。

 

そしてイヴェントの内容も良い意味で事前の予想を裏切った。私は「コテコテ」という新著のタイトルから、昔ながらのマニア向け「知れらざるブラック・ミュージック紹介本」かと思いきや、こうした音楽ジャンル自体に対する原田さんの現代的解釈が加わっているのだ。おそらくその背景には原田さん自身が語っていた、ヴォーカルへの関心とフランク・シナトラに象徴される白人ヴォーカルに対する再認識があるようだ。そしてもちろん、現代ジャズにおけるヴォーカル重視、アレンジ重視という現状も影響していると思う。

 

その第一が「聴き比べ」。ジャズでよくやるオリジナル、ポピュラー・シンガー版とジャズ・ヴォーカリストの歌唱の違い同様、意外なポップスがソウル・シンガーたちによって巧みに料理されているケースが実際の音源によって紹介され、ブラック・テイストの実際が的確に伝わってくる。とりわけ私たちの世代には懐かしいヴィッキーの「恋はみずいろ」のブラック・バージョンなど、「え、こんなのがあったの」と驚かされた。そしてシナトラのおよそ「黒くない」歌唱のブラック版も、眼からウロコだった。詳しくは当日の選曲リストをご覧いただきたい。

 

そして、何より興味深く、若い女性ファン層の存在のヒントともなったのが、現代ジャズとブラック・ミュージックの関係だ。よく考えてみれば、今回紹介されたスナーキー・パピーの人気オルガン奏者コリー・ヘンリーのやっていることだって、もちろんルーツはブラック・ミュージックだったのだ。

 

最後にこれを「予想外」と言っては語弊があるかもしれないが、定価2700円とかなり高価な新著が当日飛ぶように売れたことだ。カラーでジャケットが掲載されたていねいな作りの書物なので価格相当であることはわかるが、よほどのマニアでなければ買わないのでは、という当方の予想を見事に裏切ってくれたのは、何より「音」のリアリティだろう。原田さんの的確な解説でブラック・ミュージックの魅力を実感した当日のお客様が、「これは買わなきゃ」と思ったことは間違いない。

 

ともあれ、いろいろな意味で良い方向で事前の予想を覆す素晴らしいイヴェントだった。その「予想外」は現代ジャズの実態に対する理解にも繋がり、そしてまた新たなジャズ・ファン層の出現を知るきっかけともなったのだった。

 

ブラック・ミュージック繋がりということで言えば、今週末のイヴェント『今聴いてほしいブルース/ソウル/ファンクのメッセージ・ソング』も今回の原田新著とどうかかわるのか、大いにに楽しみ!

 

 

 

 

 

【当日の原田さんによる選曲リスト】

 

 

『コテコテ・サウンド・マシーン』 発売イベント at 「いーぐる」

              

 

  1. Bloodest Saxophone feat. Big Jay McNeely 「Hot Special」

2.Gus Poole 「Hallelujah, Alright, Amen!」

  1. Beck 「The New Pollution」
  2. Otis Redding 「(I Can't Get No) Satisfaction」 Apr.10,1966,live in Los Angeles (2nd set) 5. Otis Redding 「(I Can't Get No) Satisfaction」 Apr.9,1966,live in Los Angeles (2nd set) 6. Hoagy Carmichael 「Georgia on My Mind」
  3. Pucho And The Latin Soul Brothers 「Georgia on My Mind」
  4. Vicky Leandros 「L'amour est bleu」(恋はみずいろ)
  5. Rufus Harley「Love Is Blue」(恋はみずいろ)
  6. Frank Sinatra 「It Was A Very Good Year」
  7. Della Reese 「It Was A Very Good Year」

 

<中入り> Sonny Hopson's Radio Show (1969, Philadelphia)

 

  1. Bobby Bryant「A Prayer for Peace」
  2. Marvin Gaye「I Wanna Be Where You Are」(Alternate Version) 14. Build An Ark 「Dawn」
  3. Billy Hawks 「Whip It On Me」
  4. New Jersey Kings「Solid」
  5. Cory Henry「He Has Made Me Glad」
  6. Delvon Lamarr Organ Trio「Move On Up」

 

 

 

  • 2019年3月9日(土曜日)午後3:30~6:00 受講料 2000円

 

小学館カルチャーライブ!』

 

「昭和 → 平成」JAZZ 日本史

 

通巻100冊を超える、小学館人気分冊百科「ジャズ100年」シリーズ監修者の後藤雅洋が、「JAZZ日本史」というテーマで講演を行います。

美空ひばり秋吉敏子からakiko、小曽根真まで、昭和、平成を彩った世界レベルの和製ジャズ・アーティストの功績と業界の変遷を、日本を代表するジャズ評論家、村井康司さんをお相手に、実際に音源を聴きつつ、語り尽くします。

 

  • 「ジャズ絶対名曲コレクション」第11号(1400円+税)1冊付き

 

                        登場  後藤雅洋 × 村井康司

 

 

 

 

  • 第656回 3月16日(土)午後3:30より 参加費 500円+飲食代金

『コテコテ・サウンド・マシーン』発売記念イベント 

 

オルガン・ジャズ、ソウル・ジャズ、ホンカー、リズム&ブルースの永遠不滅の熱量を体感。最新書き下ろし著書『コテコテ・サウンド・マシーン』(スペースシャワーブックス)で紹介されている楽曲を厳選、書籍の制作秘話と共にたっぷりお届けいたします。『コテコテ・デラックス』ジェネレーションはもちろん、デルヴォン・ラマー、ボビー・スパークス、コーリー・ヘンリー、ブラッデスト・サキソフォンなど気鋭たちの音楽で“groove”に目覚めた方も、みんな大歓迎です。

 

:当日は新著即売も致します。

                                解説 原田和典

 

 

 

 

  • 第657回 3月23日(土曜日)午後3:30より 参加費1500円+飲食代

『今聴いてほしいブルース/ソウル/ファンクのメッセージ・ソング』

ブルース&ソウル・レコーズ146号(2月25日発売。スペースシャワーネットワーク刊)は特集として、1950年代から1970年代にかけて送り出されたアフリカン・アメリカンによる社会的なメッセージを持つ曲を紹介しています。ビッグ・ビル・ブルーンジーの「ブラック・ブラウン&ホワイト」、サム・クックの「ア・チェンジ・イジ・ゴナ・カム」、ファンカデリックの「フー・セズ・ア・ファンク・バンド・キャント・プレイ・ロック」、等々。それらは身近にしてヘヴィな題材から自由の希求を歌に託すものまで様々であり、ブラック・ミュージックとしての生命力を直裁に宿すものにほかなりません。果たして、アメリカは変わったのか? それらをピックアップし、年代順に実際に大きな音でかけながら、アフリカン・アメリカンの心情、彼らを取り巻く米国状況の変化を考察していきます。

 

出演者:高地明、佐藤英輔、濱田廣也(BSR編集長)

 

 

dues 新宿 『2018年ベスト盤~ジャズ喫茶から見た新譜』

 

 

2月24日(日曜日)に、ディスクユニオンさんのイヴェント・スペース「dues 新宿」にて、『2018年ベスト盤~ジャズ喫茶から見た新譜』というイヴェントをやらせていただきました。これは、長年「いーぐる」にて「NEW ARRAIVALS」という新譜紹介イヴェントをユニバーサルさんと共に開催してくれた、ユニオン羽根さんのご尽力によるものです。当日は熱心なお客様が大勢お越しになり、おかげさまで評判も良かったようです。

 

今回はその模様をご報告したいと思います。まず私の選んだ2018年ベスト・アルバム10+番外編をご紹介いたします。トップのカマシは動かないものの、順位はさほど厳密なものではありません。当日のイヴェントでは、10位から順に1曲ずつご紹介し、簡単な解説をいたしました。

 

 

  • 2018 ベスト盤

 

1, Kamashi Washington / Heaven and Earth / Fists of Fury / 9’ 42”

2, Marcus Strickland / People of the Sun / Timing / 5’ 25”

3, Miho Hazama / Dancer in Nowhere / If Paradiso del Blue / 8’ 51”

4, Sons of Kemet / Your Queen Is a Reptile / My Queen Is Harriet Tubman / 5’ 40”

5, Chick Corea / Trilogy 2 / Pastime Paradise / 8’ 27”

6, Maisha / There Is a Place / KAA / 10’ 23”

7, Nik Bartshe's Ronin / Awase / Modul 34 / 8’ 51”

8, Time Groove / More Than One Thing / Sir Blunt / 3’ 30”

9, Antonio Loureiro / Livre / Caipira / 5’34”

10, Satoko Fujii / Invisible Hand / Hayase / 6’ 09”

 

発掘 Eric Dolphy / Musical Prophet

復刻 Tohru Aizawa Quartet / Tachibana

 

 

  • ジャズ喫茶の役割

 

イヴェントではまず最初に、新譜紹介におけるジャズ喫茶の役割をお話ししました。というのも、ここ数年明らかにジャズ・シーンは活性化しており、新人ミュージシャン、新譜に興味深い人材、アルバムが数多く輩出、登場しているのですが、従来からのジャズ・ファン層にその動きが確実に伝わっているかということになると、若干心もとない気がするからです。

 

ですから、マイルス、コルトレーン、そしてエヴァンスといった従来からの人気ミュージシャンのファン層がお客様の大半を占めるジャズ喫茶では、そうしたベテラン、ジャズファンにどのように最新ジャズの面白さを伝えるか、つまり、いかに従来からのジャズ喫茶ファンと新しいジャズを繋げるか、ということが問われているわけです。

 

 

  • 昔ながらのジャズファンがわかりやすい「新しいジャズ」を選ぶ。

 

こうした状況を考え、私の選択基準は最新ジャズの動向を踏まえつつ、ベテラン層にも届くであろうアルバムを中心にセレクトしたのですが、今年はかなり苦労しました。その理由は紹介したいアルバムが多すぎ、いかに削るか四苦八苦したからです。以下アルバム選択理由と、当日のコメントをわかりやすく補いつつご紹介いたします。

 

 

:Satoko Fujii / Invisible Hand

ビッグバンドのリーダーとして知られる藤井総子が珍しくソロ・ピアノを披露したアルバム。部分的にセシル・テイラーを彷彿させる場面もあるが、全体としてはメロディアスで親しみやすく、しかも演奏には一本筋が通っている。こうしたスタイルは従来からのジャズ・ファンも理解しやすいだろう。

 

 

:Antonio Loureiro / Livre / Caipira

ブラジリアン・テイストが心地よい。こうした趣向を「ジャズっぽくない」と思われる方は、ジャズの歴史を今一度紐解いてみることをお勧めします。ジャズ発祥の地ニューオルリンズはスペイン、フランスの統治下にあったこともあり、ラテン・ミュージックがごく自然に街中に溢れていたのですね。ですから、原初のジャズにはラテン・ミュージックの影響が色濃かったと言われているのです。

 

また、ビ・バップ一方の雄、ディジー・ガレスピーキューバ人ミュージシャンたちと交流したことはよく知られています。そして、ブラジル発の新興音楽だったボサ・ノヴァスタン・ゲッツによりジャズに取り入れられたことは、どなたもご存知ですよね。また、70年代以降ともなると、ウェイン・ショーターパット・メセニーらがブラジル音楽にインスパイアーされた作品を世に問い、そして私が昨年同じくdeus 新宿でやらせていただいた「2017ベスト」の1位に挙げたカート・ローゼンウィンケルの名盤『カイピ』は、ブラジル、ミナス地方の音楽の影響を強く受けた傑作なのです。ちなみにアントニオ・ロウレイロはカートのサイドマンとして来日公演してましたね。

 

 

:Time Groove / More Than One Thing

近年イスラエル出身ジャズ・ミュージシャンの活躍が伝えられますが、タイム・グルーヴもそうしたグループの一つ。リズムを強調したサウンドが斬新です。こうした動きも大きな眼で眺めれば、ジャズが長年追求して来た「新たなサウンド」の現れの一つなのです。

 

 

:Nik Bartshe's Ronin / Awase

ニック・ベルチュのグループ「ローニン」は「浪人」のこと。最近は日本趣味のジャズマンがずいぶんと目に付きますが、彼もその一人。そしてアルバム・タイトルの「アワセ」も、どうやら合気道の用語のようです。演奏は確かに日本的な趣がありますが、それが決して表層的ではないところが素晴らしい。繰り返し現れるリズム・パターンが次第に熱気を帯びて行く様は、まさにジャズの醍醐味です。

 

ただ、従来のジャズ、たとえば典型的ハードバップの名演、ソニー・クラークの「クール・ストラッティン」やアート・ブレイキーの「モーニン」などは、冒頭にキャッチーなテーマ・メロディが現れ、アドリブ・パートもメンバーそれぞれが順番に登場するなど、展開が読みやすく、こうした演奏に慣れたベテラン・ファンは、この演奏のような「次第に盛り上がって行くタイプ」は、ちょっと苦手なのかな、などとも思います。しかし、音の流れに素直に従って行くことによって、こうした新しいスタイルのジャズの面白さが見えてくるはずです。ちなみにサウンドこそ違え、リズムが聴き所なのはタイム・グルーヴと似ており、こうした傾向は最新ジャズの特徴でもあるのです。

 

 

:Maisha / There Is a Place

イスラエルと共に注目されているのがイギリスのジャズ・シーンで、マイシャもそうしたグループの一つ。こちらはエスニックなテイストがポイントですが、シンプルな反復リズムの強調や次第に盛り上がりを見せるところなど、やはり最新ジャズの傾向を踏襲しています。しかし後半に熱気を帯びたサックス・ソロが登場するので、従来からのジャズファンにも受け入れられやすい演奏だと思います。

 

 

Chick Corea / Trilogy 2

今更チックか、と思われるかもしれませんがとにかく演奏がいいのです。60年代後半に共に覇を競うようにして登場したキース・ジャレットが近年衰えを見せているのと対照的に、チックの好調は注目に値します。これなどは誰にでも勧められる新譜の傑作です。

 

 

:Sons of Kemet / Your Queen Is a Reptile

こちらもイギリス出身のテナー奏者シャバカ・ハッチングス率いるユニークなグループ。チューバを強調したエスニックなサウンドが多彩なリズムに乗って展開されます。最新ジャズに対するベテラン・ファンの不満の一つに「ソロが聴き分けられない」というのがあるようですが、この演奏などに顕著なように、チューバも含めたリズム隊と一緒になった「サウンド的なソロ」が近年のジャズの特徴でもあるので、その辺りは若干認識を改めていただければ、こうした趣向も楽しめるのではないでしょうか。

 

 

:Miho Hazama / Dancer in Nowhere

先日挟間美帆のライヴを観てほんとうに驚きました。途轍もなく演奏のレベルが高いのです。ストリングス・パートを含む変則的楽器編成のビッグ・バンドを、それこそ一糸乱れず音楽に集中させている。メンバー全員の技術的レベルが高いのは言うまでも無いのですが、それが単なる「無機質な巧さ」ではなく、音楽的にこれ以上ないと思われる豊かな境地にまで到達しているのです。この時思いましたね、日本のジャズが文句なしに世界レベルになったと。

 

今回はベテラン・ファンが取っつきやすいサックス・ソロがフィーチャーされたトラックを選びました。ソロイストも凄ければ、ソロとバンド・サウンドの絡みも絶妙です。まさに近代ビッグ・バンド・ジャズの精華が挟間ミュージックと言っていいでしょう。

 

 

:Marcus Strickland / People of the Sun

ベテランジャズ・ファンの最新ジャズに対する不満の最大のものがラップに対する違和感でしょう。私もこの意見はもっともだと思います。何より問題なのは、日本人には何を言っているのか聴き分けられないことが大きい。仮に意味が分かったとしても、問題意識を共有することまでは難しいのですね。これはやむを得ない。

 

このアルバムもラップが入ったトラックもあるのですが、あえて彼のサックスがフィーチャーされたが曲を選びました。ポイントは、マーカスが「わかりやすいフレーズ」を吹いているところです。とは言え、バックのリズムは明らかに現代的で最新リズムとセットになることで「繰り返しフレーズ」が活き活きとした精彩を放つのです。

 

 

:Kamashi Washington / Heaven and Earth

従来からのベテラン、ジャズファンが現代ジャズに対して挙げる不満の最大のポイントは、「ソロが誰なのか聴き分けられない」あるいは「そのミュージシャンの表現しようとしている『世界』がわかりにくい」といったところにあるのでは無いでしょうか。その結果として、「親しみにくい」ということになるのですね。カマシ・ワシントンは、あたかもそういった伝統的ファンの声に応えるかのようにして登場した、現代ジャズを代表するサックス・プレイヤーです。彼はこうした不満を一挙に解決する傑作を発表しました。それが『Heaven and Earth』なのです。

 

ニック・ベルチュは素晴らしいミュージシャンなのですが、強いて問題点を挙げるとすれば、演奏がだんだん盛り上がるため、パッと聴いて音楽の特徴が掴みにくいのですね。カマシはそうした「問題点」(本当は「問題」とは言えないのですが)を、のっけから聴き手の耳目を惹きつけるキャッチーな楽曲を採りあげることで、見事に解決したのです。

 

ふつうに考えればちょっと気恥ずかしくならないでもないベタな曲想を、あえて採用するカマシの気合の入り方、腰の据わり方は尋常ではありません。そしてここでも、繰り返される印象的リズムが重要なポイントになっています。

 

彼の音楽のもう一つの聴き所は、伝統的ジャズファンにも十分アピールする「ブラインド出来るソロ・フレーズ」を意識的に挿入する戦略性の高さです。私たち伝統的ジャズファンが「マクリーン、カッコいい」という時、必ずしもジャッキー・マクリーンの即興レベルの高さに感動しているわけではなく、言ってみれば聴き覚えのある「マクリーン節」に酔っているのですね。

 

こうしたことは別に「ジャズ精神」に反するわけでは無いのです。ジャズという音楽の最大の特徴は「自己表現」であり、「ブラインド出来る」マクリーン節は、同じく誰にでも聴き分けられるルイ・アームストロングの人間的なトランペットの音色の魅力を受け継ぐ、「ジャズの王道」なのです。そしてカマシはそのことを熟知しているのです。

 

 

今回ほんとうに多様な新譜をまとめて聴いたのですが、個人的に印象に残ったのは「リズムの新しさ、面白さ」なのですね。仮にその上に乗っているフレーズやサウンドは聴き覚えがあるものでも、リズムが新しくなるとまったく印象が変わってしまう。こうした現代的リズムを聴き慣れてしまうと、伝統的ジャズの「牧歌的」リズムでは少々物足りなっている自分に気が付き、我ながら唖然としました。まさに「リズムの音楽」である「ジャズの伝統」は、現代に息づいているのです!

 

 

最後にドルフィーの発掘盤に触れておくと、彼の前衛的試みを知るにこれは必聴盤と言っていいでしょう。3枚組のうち1枚のみが発掘音源ですが、他の既発音源も音質が著しく向上しており、買い替える価値は十分にあると思います。

 

興味深いのが復刻されたTohru Aizawa Quartet / Tachibanaで、演奏の熱気の高さは尋常でありません。かつての日本のジャズ・シーンの熱さがヒシヒシと伝わってくる名盤で、こちらも文句なしのお奨め盤です。