10月30日(土)

あいにくの天気でどれほどお客様が見えられるか気がかりだったが、荻原さんのサンバ特集、思いのほか多くの皆様にご来会いただき、たいへん驚くとともに、ブラジル音楽ファンの熱い意気込みを感じた。

正直に言って、私のラテン音楽に対する理解は本当に通り一遍のものに過ぎないのだけど、荻原さんによる4月の『ショーロの午後〜ブラジルのインストルメンタル音楽140年の歴史を辿って』、7月の『フレンチ・カリブの誘惑〜マルチニック、グアドループクレオール・ミュージック』そして今回の『カルトーラとノエール・ローザを偲んで』と、3回に渡ってかの地の音楽を聴いての感想は、本当にどれもが気持ちにスッキリと馴染み、心地よく身体に沁み通って行くのである。

思いのほかこの手の音楽と相性がいいのか、あるいは荻原さんの素敵な選曲のなせる技か・・・

特に今回のサンバは、今までイメージしていたリオのカーニバルの派手派手しい感じとは一味も二味も違うしんみりしたもので、やはり聴いてみないことには音楽の幅広さはわからないことが実感された。個人的なフェイヴァリットは、カルトーラは12番目に紹介された『我が人生の冬』、ノエール・ローザは23番目に紹介された『笑顔が最高』。その時の音源をいただいたので、まだまだ増えるでしょう。

荻原さんの解説は実にていねい、かつ、この音楽の文化的背景にも詳しく言及した本格的なもので、音楽研究、紹介のあるべき姿を私たちに示してくれた。ブラジル政府の文化政策の一環としてサンバが注目されたことや、阿波踊りの「連」のような「エスコーラ」が大きくなるに連れ、地元の顔役などが口出しするようになり、踊りに適したシンプルな曲想を求められ、芸術志向の強いカルトーラが疎外される話など、音楽といえども目的志向、世俗的な世界と無関係でないことが良くわかる話だった。これが本当の音楽研究なのだ。

今後とも荻原さんにはいろいろな講演をお願いしたい。それは感覚的な楽しみであると同時に、知的な快楽でもあるのだから・・・