8月6日(土)

7月2日の『河内音頭』の講演の打ち上げで、「今ジャズ界でヒップ・ホップのことが話題になっているのだけど、よくわからないんですよ」と鷲巣さんにコボしたら、ヒップ・ホップが盛んになる直前までの状況なら非常に詳しいという嬉しいご返事。さっそく「準備期間が短くて申し訳ありませんが、なるべく早めにそのあたりのお話をしてください」とお願いした結果が、本日の鷲巣さんによる「ヒップ・ホップ前夜」講演なのだ。

結論から言うと、ほんとうにやって良かった。何よりも、いままで漠然としていた私にとってのヒップ・ホップのイメージが、非常に明確になったのである。そうなってみればこのジャンル、決して耳新しいものではなく、断片的にではあるけれど、かなり耳に馴染んだ音なのだ。というのも、もともと60年代ソウル好きなだけに、歯切れの良いリズムにしろラップにしろ、時代こそ違え「黒い音楽」というカテゴリーで見事に私の音楽整理棚に納まるのである。

細かいニュアンスやそれぞれのラッパーの特徴などまではわからないにしても、とにかく気持ちよく聴けるのである。まあ、このあたりは私より一世代下とは言え、やはりソウル・ミュージック・ファンであったという鷲巣さんと、私の音楽の好みが似ているからなのかもしれない。

しかしどうやらそれだけでもなさそうで、参加された村井さん、いっきさんらも選曲リストのかなりのトラックに丸印、つまり「お気に入りマーク」を付けている。もちろん私も半分近くお気に入りマークが付き、こんなことは珍しい。ちなみにその一部をご紹介すると

Grand Master Flash / ‘80
G.M.F. / Adventure Of G.M.F. On The Wheel Of Steel / ‘80
G.M.F. & F5 / The Massage / ‘82
Malcolm X / No Sell Out / ‘83
Africa Bambaataa & James Brown / Unity / ‘84
Chaka Kahn / Feel For You / ‘84

といったところ。そして鷲巣さんは講演の最後にRum-DMC / Rock Box / ‘84をかけ、これがヒットした頃から自分はヒップ・ホップの世界から自主的に遠ざかって行ったとおっしゃっていたが、私もこの音はそれまでのものとはちょっと違ってきているなということはなんとなく感じられた。

ともあれ、今回の講演でわかったことは、ヒップ・ホップは、ジャズとのかかわり云々という問題はさておいても、少なくとも鷲巣さんの選曲されたものはすべて素晴らしく、楽しく聴けた。中山さんがおっしゃっていたように、ジャズファンのヒップ・ホップに対する「偏見」は、「US3」など、「その後の一部の音源」が原因となっているという面はあるのかもしれない。ちなみに、非常に詳しく、かつ正確な当日の記録が「いっき」さんのブログに掲載されているので、ぜひそちらもお読みになっていただきたい。

このヒップ・ホップ探求講演はまだまだ続き、8月27日には原雅明さんとD.J.AZZURROさんが、鷲巣さんが「自主的に遠ざかった後」のヒップ・ホップ・シーンを現場からリアルに伝えてくれるはずだ。このジャンルに関心をお持ちになったファンは、この講演も聞き逃せないだろう。