8月13日(土)

阿部さんの講演は今までもう何回やったのか数え切れないほどだが、ハッキリとした特徴がある。まず取り上げるテーマが典型的な「ジャズ喫茶もの」なのだ。「ジャズ喫茶もの」という言い方は今では通じにくくなってしまったかもしれないけれど、要するにジャズ喫茶の常連なら必ず愛聴しているようなタイプのミュージシャンのことである。一例を挙げれば、ジャッキー・マクリーンなどが代表だろう。

もう一つの特徴は、とにかく耳でセレクトした良い演奏をかける。これは当たり前のことのようでいてそうでもない。というのも、テーマによっては、必ずしも「心地よくない」演奏だって、話の流れでかけざるを得ないということもあるからだ。その点阿部さんは潔い。まず聴いてナンボの線を絶対に崩さない。つまり阿部さんの提供する2時間半は決してジャズファンの期待を裏切らないのだ

今回の講演『ソニー・クラーク特集〜その2』もまさにそうした阿部カラーが良く出たジャズ喫茶マニア好みのセレクトだった。というのも、クラークはサイドマン・アルバムも多く、それらはほとんどが典型的ハードバップ・セッションなのだ。大体において、ジャズ喫茶ファンはハードバップ・ファンと重なることが多い。

そして同じパウエル系ハードバップ・ピアニストでも、ウィントン・ケリーなどは『フル・ハウス』(Riverside)など、人口に膾炙した名盤参加率が高く、また、ケニー・ドリューは盛り上げ系ノリノリ・セッションが多く、これまたある意味でわかりやすい。他方、ソニー・クラークはその持ち味からして渋く、そのことの反映なのか、彼がサイド参加したハードバップ・セッションもマニア好みの渋めが多いのである。

今回の講演は、そうしたいささか地味だけど、じっくり聴けばジンワリとジャズを聴く快楽が沸き起こる、少々通好みの好演の数々が紹介された。そして今回改めて良くわかったのは、こうした「地味・渋、好演」は、的確な解説によって聴きどころが浮かび上がってくるということだ。

実を言うと、前回鷲巣さんの講演のブログに「自分で機器を操作する関係上、ブースに入っている間は講演者の解説を聞き漏らす部分がある」という意味のことを書いたが、後になって考え直した。それなら操作は店のスタッフにまかせればいいではないか。何を今更と思われるかもしれないが、今までは、おいでいただいた講演者に対する敬意の意味もあって、アルバム操作はスタッフに任せず、あえて自分が担当していたのだが、よく考えてみれば、講演者の話を一部でも聞き逃さないようにすることの方が、講演者に対するリスペクトの姿勢としては正解ではないか。

というわけで、今回から試験的に操作をスタッフに任せ、私は常にフロアーに出て話を聞く姿勢をとってみると、なるほどちょっと違うのだ。従来だってほとんどはフロアーに出ており、おおよその話は掴んでいたのだが、人によってはアルバムが切り替わる最初に重要なポイントに触れる方もおり、そうした場合はちょうどそのタイミングで私は次にかけるアルバムをブース内でセットしているので、かけるトラックを間違えないようにするなど、どうしても注意が逸れてしまう(それでもけっこう違うトラックをかけちゃったりするのだが・・・)。

そうやってみると、阿部さんは解説の仕方にも個性があることがわかってきた。つまり演奏の細部、具体的部分に対する、これまた具体的な言及が多いのだ。例えばドラマーがどこで叩き方を変えただとか、音色の聴きどころポイントなど、実際に楽器を演奏した経験のある(阿部さんは学生時代ビッグバンドでバリトンサックスを吹いていた)方ならではの「ひとことアドバイス」が実に有効なのである。

「解説」にはいろいろな行き方があって、音楽的背景だとかエピソードなどに詳しい方もおられれば、阿部さんのように徹底的に演奏の具体的肌触りをなるべくわかりやすい言葉で説明しようという姿勢もある。すべて満遍なくというのが理想なのかもしれないが、えてしてそういうスタンスは「教科書的、通り一遍」になり勝ちのような気がしないでもない。

というわけで阿部流、演奏の具体的説明によって、ボーっとしていると聴き流してしまうようなところも、「耳のポイント」さえチューニングすれば、「オッ、これはなかなかいいじゃないか」となるのである。阿部さんには、今後もこの方向を突き進めていただきたいと思う。