11月3日(土)

吉祥寺『メグ』にDJ大塚広子プロデュースによる『紅白ジャズ合戦』を観にいく。これは最近『いーぐる』にも登場していただいた大塚さんのお誘いと、白組に昔からの知り合いである漫画家ラズウェル細木さんが登場するので応援、という含みもあるけれど、なんといっても「敵情視察」の意味合いが大きい。近頃寺島さんの動きはどうなってるんだ? 

結論から言うと、大いに楽しめたと同時に、実にいろいろと勉強になりました。このイヴェント、島田奈央子さん、原和加奈さん、そして大塚さんの女性陣と、藤田嘉明さん、前泊正人さん、ラズウェルさんの男性陣が紅白に分かれ、双方の先鋒、中堅、大将がそれぞれこれぞというアルバムから1曲ずつかけあい、お客様方にどちらが好みか判定してもらうという趣向。

当初紅白のカードが配られ、赤組白組どちらが勝ちかカードを挙げるという説明がされたが、審判(!)を務める寺島さんよりクレーム。「そういうやり方だと、女性陣に贔屓する男性が出てきて不公平だ!」。これには同感で、急遽ブラインドで曲をかけ、先にかけたほうが良ければ白カード、後者なら赤という方法に変更。

これで、果たして今かかっているのは女性陣の選曲なのか男性陣なのかを「読む」楽しみが加わり、ゲームの面白みが倍加すると同時に、必然的にみなさん真剣に聴き込まざるを得なくなる。結果、満員御礼のお客様方が熱心に音楽に聴き入る様は、まさに往年のジャズ喫茶黄金時代を彷彿。寺島さんの深謀と、大物タレントを一堂に会させたプロデューサー大塚さんの手腕に脱帽!

私自身もかなり真剣に「いーぐる」でかかる傾向とはまた違った曲想に耳を傾けつつ、「これは誰だ?」そして「こういう曲を選ぶのは大塚さんかラズウェルさんか?」と二重の疑問探求を大いに楽しませていただきました。

まあ、当夜の面白いエピソードには事欠かないけれど、大塚さんがこともあろうに寺島さんが毛嫌いするマイルス『ビッチェス・ブリュー』から名曲《スパニッシュ・キー》をご披露した時は大いに笑えた。こういうときの寺島さんは実に見事なヒール役をこなしてくれる。

私事を言えば、自由に判断すればいいものを、「贔屓」とはまた別のバイアスをかけているのに気が付いたのは面白い発見だった。そもそも挙手の判断は、寺島さんも司会の藤田さんも「お好きな方を」と言っており、決して「内容の優れたもの」とは言っていないのに、私はといえば、曲によって微妙に判断基準が揺れ動く。

すなわち「別に好きではないけれど、演奏は優れている」。これって、ジャズ喫茶レコード係りの宿命なんだろうか。もちろん自宅では好き勝手に音楽を聴いているけれど、『メグ』のような、もろジャズ喫茶の「場」に身を置くと、無意識のうちに「本能」がアタマをもたげるのだった。

それからもう一つの「発見」は、店内所狭しと飾り立ててあるジャケット、ポスターの類がものの見事に「女性もの」。それも名物スピーカー、アヴァンギャルドの目立つホーンはじめ赤を基調とした色調はまさに「いかにも」なシロモノ。こうした風景を表面からだけ眺めれば、下心丸出し男性ジャズファン迎合路線と思われがちで、事実私も当初そう思っていた。

しかし、マリリン・モンロー風フィギュアの衣装、ハイヒールに至るまで見事に真紅で統一されているのを見るにつけ、何事も「したたかな」テラシマさんのこと、これは何かウラがあるに違いないと気が付けば、そう、これは実は女性向けの演出なのではないのか。

つまり、今まで私は当然と言えば当然なのだけど「男性目線」でこうした状況を眺め「オトコに迎合」と思い込んでいたが、その深層心理には「女性のジャズ」あるいは「女性ジャズファン」をないがしろにするところがあったのではないか。

冷静に考えてみれば、もうすぐ来日するマリア・シュナイダーはじめ優れた女性ジャズ・ミュージシャンはいくらでもいるし、現に今回のDJ紅白戦だって、4勝1分で女性軍の圧勝だった。ことほど左様にジャズの現場への女性進出が進んでいる状況を、テラシマさんは肌で実感されているのではないか。その証拠に、当夜の『メグ』の客層は『いーぐる』に比べ、明らかに女性優位。これは考えなければイケマセン。

最後に、豪勢に私たちにワイン1本奢ってくれた寺島さんに感謝すると同時に、あまりの楽しさにヨッパライ、つい勘定を忘れそうになってしまったボケぶりをこの場を借りて『メグ』関係者のみなさんにお詫びいたします。それにしても楽しかった!