4月26日(金)

村上春樹話題の新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(文藝春秋)をようやく入手、読み進むうちリスト「巡礼の旅」なるはじめて聞く曲名が頻繁に登場、けっこう気になる。そう言えば前作『1Q84』(新潮社)でもヤナーチェクという(ジャズファンにとっては)マイナーな作曲家の《シンフォニエッタ》がやたら登場、これも聴いてみたいとは思っていた。また、小林秀雄賞を受賞した村上春樹の『小澤征爾さんと音楽について話をする』(新潮社)でも、もちろん話題はクラシック。

彼の作品にジャズが登場するのは元同業者だけに当たり前とも言え、そちらは「知っている」領域だけに特に関心は惹かないが、「隣の芝生は青く見える」ではないけれど、クラシック、特に未聴の作品はけっこう好奇心をそそるのだ。

そんなとき、ユニバーサルミュージックの知人と雑談するうち、「春樹作品登場クラシック」を固め打ちで聴く会のアイデアが浮かび上がった。しかし、『いーぐる連続講演』はずいぶん先まで予定が詰まっており、これはゲリラ的にやるっきゃないと決断、即行で決行。

ほとんど告知期間も無く始めた割には、通りがかりに張り紙をみたお客様はじめ、けっこうな客入り。面白かったのは来店早々『JAZZ JAPAN』を手に取る明らかなジャズファン、いつもと違うクラシックでお帰りになるかと思いきや、しっかり腰を据え、ブラームスなど聴き入っている。

個人的に気に入ったのは「ブラームス交響曲第1番 ハ短調」。サイトウ・キネン・オーケストラって、けっこういい。そしてもちろん小澤の指揮ぶりも見事。そして自画自賛を承知で言えば、JBLも新しい機種はかなりクラシックにも対応できることが今回良くわかった。今後はクラシックの特集もやってみたいと思う。


●当日の選曲リスト

村上春樹とクラシック

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」より

1.「リスト:巡礼の年 第1年<<スイス>> S160 ノスタルジア(ラ・マル・デュ・ペイ)」
2.「リスト:巡礼の年 第1年<<スイス>> S160 ジュネーヴの鐘」
3.「リスト:巡礼の年 第2年<<イタリア>> S161 ペトラルカのソネット 第47番」
ラザール・ベルマン(ピアノ)

小澤征爾さんと、音楽について話をする」より

4.「バーンスタイン、演奏前のスピーチ (1962年4月6日 カーネギー・ホール)」

5.「ブラームス:ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 作品15 第1楽章」
グレン・グールド(ピアノ)、レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック

6.「ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 作品37 第2楽章」
内田光子(ピアノ)、クルト・ザンデルリンク指揮 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団

7.「ブラームス交響曲 第1番 ハ短調 作品68第4楽章」
小澤征爾指揮 サイトウ・キネン・オーケストラ

ノルウェイの森」より

8.「ブラームス:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品83 第1楽章」
ヴィルヘルム・バックハウス(ピアノ)、カール・ベーム指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

「1Q84」より

9.「ヤナーチェク:シンフォニエッタ 第1楽章」
ジョージ・セル指揮 クリーブランド管弦楽団



最後に最新作に対する、気軽、かつつたない雑感をネタばれにならない範囲で少々。

たまたま「いーぐる掲示板」で「白黒論争」が喧しいなか、この小説ではもろ「シロ・クロ」なる女性たちが登場。それも後半では「クロ」が「今後は私たちをシロ・クロと呼ばないで」と、ユングではないがあまりにもな「共時的な一致」に驚く。言うまでもないが意味・文脈はまったく違いますが・・・(直感だけど(いや妄想か)「シロ」は文壇内部の誰かさんが「部分的に」モデルなのでは・・・)

それにしてもこの小説、アカ・アオも出てきて、おそらく近いうちにこの色の持つ意味の「解読本」が現れるのは間違いなかろう。完全な妄想だが、「色を持たない」主人公を仮に黄色に見立てれば(個性を持たない「黄色人種」日本人のメタファーか?)それこそ「陰陽五行説」。そうなれば連想は続き中井英夫『虚無の供物』に繋がる(五色不動巡り、続けてます)。ゲイも出てくるし・・・ まあ、関係ないでしょうけどね。

面白い小説ですよ。ちょっとミステリーみたいなところもあるし・・・ しかし通奏低音は、暗い。それが今の時代相に合うのかも・・・とりあえず未読の方にはオススメです。