9月27日(土)

高橋政資さんは今回始めて「いーぐる連続講演」に登場。高橋さんのご本業はワールド・ミュージックで知られたアオラ・コーポレーションの経営。今回、キューバ関係のCDの即売も行った。ところで、ここ数年「いーぐる連続講演」でジャズ以外の音楽ジャンルの講演も行うようになったが、これにはそれなりの理由がある。

というのも、21世紀になってからのジャズは、まさしく「世界音楽」としての性格を強め、昔ながらの文脈だけではその素性がつかみ難くなってきた。そこで、一旦ジャズを離れ、ジャズ周縁の音楽を先入観なく渉猟してみる必要を感じたからだ。特にラテン・ミュージックはジャズといろいろ浅からぬ縁を持っている。

とりわけ今回高橋さんにお願いした「キューバ音楽事始め」と題されたキューバ音楽は、ディジー・ガレスピーの例を挙げるまでもなく、ジャズとは縁が深い。しかし、ことさら「ジャズがらみ」で講演をお願いしたわけではなく、まずはキューバ音楽の「いろは」から聴いてみようというのが主旨。

というわけで、キューバの基礎知識である1592年コロンブスによる「発見」から説き起こし、キューバの歴史的背景に由来する、アフリカ系音楽とヨーロッパ由来の音楽、両者の混交状況をさまざまな音源を聴きつつ詳しく解説していただいた。「ダンサ」「ダンソーン」「アバネーラ」から「グアラーチャ」「トローバ」「ボレロ」「ソン」など、かの地の音楽史を概説していただき、いよいよ私たちにもなじみの「ルンバ」「マンボ」「チャチャチャ」に至る道筋をていねいに辿る。

初めての体験なので、それらについて適切な感想を述べる術は持っていないが、想像通りキューバ音楽は私好み。どの辺りが「好み」なのかといえば、やはり多彩なリズム。そして、たとえば「ソン」の高い声のコーラスや声の魅力が私を強く惹きつけた。そして、そこはかとなく漂う「優雅さ」は、アメリカ黒人音楽には無い性格のもの。

アフリカとヨーロッパの融合ということでは、ジャズと似た歴史を持つキューバ音楽の特徴を実感することで、逆にジャズの特殊性が浮かび上がってくるようにも思える。しかしあまりそうした「ジャズ」との関係に拘らずとも、キューバ音楽には独自の魅力、聴き所があるようにも思えた。

ともあれ、ラテン世界は言うまでもなく、アフリカ、アラブにまで音楽の探索の手を伸ばす作業は実に楽しい。それは知的な面白さであると同時に、感受性の幅を広げる格好のチャンスでもある。というわけで、今後も高橋さんにはラテン世界を中心とした講演をお願いすることとした。みなさん、ご期待ください。