8月15日(土)

去る8月1日に行われた林さんによるコールマン・ホーキンス特集第1回と、本日行われたホーキンス特集の2回目を続けて聴いていろいろと思うところがあった。それをひとことで要約すれば「通説、必ずしも正しからず」ということになるだろう。まあ、当たり前のことでもあるのだが、ジャズ界で語られていることは必ずしもすべて正しいわけではない。

とりわけコールマン・ホーキンスのように古い時代のジャズマンの業績については、いわゆる通説に従いつつもそれを検証してみる機会は乏しい。今回林さんがふだんあまり聴かれることのないビ・バップ以前のホーキンスの演奏をまとめて聴かせてくれたので、「自分の耳」で通説を検証することができた。

率直に言って、戦前のホーキンスの演奏は「ジャズ・テナーの父」と尊称されているほどには面白くはない。名演とされている「ボディ・アンド・ソウル」にしても、悪くはないにしろ「心打つ」とまでは思えなかった。そのあたりの事情を林さんに尋ねてみると、「ジャズ・ファン以外にもわかる、わかりやすい演奏が人気の秘密だった」と実に納得のいく説明。そういうことだったのか。

林さんはまた、「イデオム」が古いから、とホーキンスを擁護していたが、そういうことでもないのではないか。ルイ・アームストロングにしろデューク・エリントンにしろ、そしてレスター・ヤングにしたって、スタイルは古いかもしれないけれど、今聴いてもジャズとしての感動はちゃんと伝わってくる。

と若干ネガティヴな印象を持った第1回講演だったが、2回目の戦後編を聴いてその思いは払拭された。後半の演奏はどれも素晴らしい。何よりフレーズに表情が籠もっている。ということはその裏返しで、戦前の演奏からは私たちジャズファンが何より期待するジャズならではの微妙なニュアンスや個性が希薄に思えるのだ。

つまりホーキンスについて「戦前は良かったけど戦後スランプに陥った云々」はちょっと違っていて、むしろ戦後になってようやくホーキンスはジャズマンとして良い時期を迎えたと言えるのではなかろうか。林さんも1958年以降良くなったと解説していたが、まさに同感である。

ともあれ、ふだんあまり聴くチャンスのないミュージシャンを系統的に聴くことで見えてくることは大きかった。