3月11日(日)
午後、吉祥寺に「あなんじゅぱす」を聴きにいく。実を言うと、小峰公子さんとの新作「カチカチ山」、と言われてもサッパリ中身の見当は付かなかったのだが、見て納得、聴いて実感、これはよーこさんの新しい挑戦であると思った。昔話カチカチ山に題材をとった歌と語りのステージなのだが、まず「話し」が面白い。後で聞いたのだが、その、かなり香辛料の効いたブラックユーモア的ストーリーは小峰さんの創作であるという。
まずもって、パリの、将来レストランを開きたいと思っているタヌキと、日本からパリを訪れたウサギという設定がユニークだ。その両者の織り成す、いささかシニックかつ「心温まる」であろう(というのも続編が予想されている)出会いを軸として舞台が進む。
小峰さんの歌声は初めてなのだが、よーこさんとの声質、キャラクターの対比がステージに思わぬ広がりをもたらす。圧巻は、よーこさんの「語り」の部分で、あらためてよーこさんは女優でもあったのだと納得する。何気ない語りのコトバに、この人でしか表現できない言いようも無い存在感があるのだ。近いうちに「続編」が南青山のMANDALAで行われるというのでこれはぜひ見てみたい。
第2部「私は生きるのを好きだった」は去年見ており、それがどう変化するのか興味があったのだが、結論から言えば、明らかに今回の方が優れている。もちろん前回も良かったのだが、正直言って少しばかり「気負いすぎ」のところもあったステージが、今回はよーこさんの歌に賭ける心意気が、すべてまっとうな技術をもって聴き手に伝わって来た。
たとえば私の大好きな「あなた」にしても、よーこさんの「絶唱」が、あたかも4輪駆動のSUVが力強く砂漠を踏破するがごとく、一切の表現の空回り無く確実に聴き手の心に浸透してきたのだ。
そして、白い衣装に着替えて登場した第2部が素晴らしい。前回このパートは明らかによーこさんが今までになかった世界に挑んでいるのは理解できたが、少しばかり「走りすぎ」ではないのか、というギモンも無きにしも非ずであったのだが、それが今回のステージで完全に誤解であったことが証明された。つまりは、よーこさんの歌の「ポップ性」が地に足をつけたのだ。「地に足を付けたポップ性」という言い方はおかしいかもしれないが、私にはそう聴こえた。
打ち上げでよーこさんの歌に対する心構え聞き、それが私がジャズ(というかアートに対して)に対して抱いている心持とまったく同じであることを知り、数年前、初めてよーこさんの歌を聴いたときに感じた不思議な親近感が、偶然ではなく、必然であったことを深く実感した。幸せな一日であった。


3月10日(土)
午後、高田の馬場、正道会館に行く。二つある道場のうち第一道場は選手クラスの特訓だが、第2道場は自由に使える。子安先生が一人で型の稽古をするのを横目に、ジジイ向けの軽いウェイト・トレーニング。
四ッ谷駅で村井さんの後姿を見つけ声をかける。二人揃っていーぐるへ。今日の出し物はビッグ・バンド特集だが、たまたま借りているパワーアンプマーク・レヴィンソン432L」の大音量試聴という、隠れた目的もある。
村井さんの選曲は、さすが自らビッグ・バンドを率いるだけに、斬新かつ説得力にあふれたもの。興味深かったのは、録音が新しくなるほどレヴィンソンの威力が発揮されたことだ。400Wはダテじゃない。
アフター・アワーズの会食はお決まりの福翔飯店。元音楽之友社鈴木さんの連れ、アイルランド音楽研究の第一人者である大島さんと親しくお話をさせていただく。2次会はいーぐるに戻り、田中さん持参の極上のワインを楽しみつつ次回特集主宰者、三具さん、鈴木さん村井さんらと、たわいの無い会話で大いに盛り上がる。