8月29日(土)
久しぶりにジャズ喫茶らしい講演だった。根っからのハードバップ・マニアならではの阿部ちゃんの選曲に、日ごろこの手のジャズを聴き慣れているはずの私が、思わず聴き入ってしまった。「幻のサックス奏者」とタイトルされた今回の特集は、いわゆる知られざるジャズマンである、ジョン・ジェンキンス、J.R.モンテローズ、アーニー・ヘンリー、そしてティナ・ブルックスの4人のサックス奏者を順次紹介するというもの。
阿部ちゃんの解説は、余分なことは言わないが、音色の特徴、聴き所などは実に具体的。やはり「音からジャズに入った」ホンモノのファンならではのリアルな説明は、いちいち腑に落ちる。当然お客様の受けも良く、みな完全に演奏に没入している有様がビンビン伝わってくる。この光景はまさに60年代ジャズ喫茶。
思うに、こういうミュージシャンの音楽はジャズそのものなのだ。例えば、パーカー、マイルスは素晴らしいに決まっているけれど、どうも彼らの音楽を「ジャズの代表」としてしまうとどこか違うような気がする。つまり、彼らの音楽はそれぞれパーカー、マイルスの個人名に帰するようなところがあって、ジャズには違いないが、それを超えちゃっているような気がしないでもない。同じようなことはモンクやエリントンについても言えそうだ。
ところが、ジェンキンスやティナの演奏は、100%ジャズなのである。別の見方をすれば、ハードバップはジャズのスタイルとしての一つの完成形で、その中で音楽をやれば、誰でも、とは言わないけれど、個性さえあれば自分の声を表現できる、うまく出来た器なのだろう。
また、それをハッキリと感じさせてくれるのは、各人の演奏を隅々までじっくり点検し、一番そのミュージシャンのいいところが現れているトラックを切り取った阿部ちゃんの耳の賜物でもある。ジャズからシアワセな時間を得ている人の選曲は、当然聴き手もシアワセにしてくれる。阿部ちゃん、またやってね。