10月24日(土)

今を去る何十年前、まだ山中さんも私も若かった頃、いーぐるでは敏子さんのビッグバンド・アルバムが毎日のようにリクエストされていた。今日の山中さんの講演で『孤軍』(RCA)がかかったとき、その当時のことが懐かしく思い出された。村井さんは長髪でしたね。上智大学ニュースイング・ジャズ・オーケストラのメンバーだった山中さん、その後輩の村井さんたちが、確か、山野楽器主催の学生バンドコンテストに出るため、敏子バンドの曲を練習していたんだと思います。
思えば、私が一般ジャズファンが敬遠しがちなビッグバンドをよく聴くようになったのは、山中さん、村井さんらが敏子、サド・メル、ベイシーなど、「ニュースイング」の課題曲を頻繁にリクエストしたからだった。感謝しています。
講演のテーマは「女性ビッグバンド・リーダー特集」ということで、秋吉敏子カーラ・ブレイ藤井郷子守屋純子マリア・シュナイダーの5人の女性ビッグバンド・リーダーが取り上げられる。今まで気が付かなかったが、こうして「女傑」たちの演奏をまとめて聴くと、確かに女性ならではの特徴が浮かび上がってくるように思える。それは一般に想像される女性的たおやかさとは真逆の、ハードコアな切れ味だ。これは面白い。
実を言うと、女性ジャズ・ピアニストにはそうした特徴がありそうなことは以前から気が付いていて、敏子さん、ユタ・ヒップ、イレーネ・シュバイツアーなどの演奏が「ひとかたまりのグループ」として私の頭の中の引き出しに納まっていた。だから、別に意外というわけではないのだが、ビッグバンドならでは特徴もあるようだ。
譜面に疎い私でも、敏子さんのビッグバンドなど、「これはメンバー大変そうだなあ」というのがヒシヒシと伝わってくる。どう考えてもあんな複雑なサウンドは相当練習しなければ吹けそうもない。そこで、「S女とM男」という図式が見えてくる。つまり複雑怪奇な譜面を「これをやるの」と命令する女性リーダーの無理難題を、「女王様の命令ならなんなりと」とばかり従順に従うバンドメンバーという構造だ。
まあ、半分冗談だからあまり本気になってもらっては困るけれど、ベイシーバンドなどのリラックスしているように聴こえる(もちろん彼らだって真剣なのは言うまでもないが)サウンドとはちょっと趣の異なるストイックな緊張感が、たとえば敏子さんの、そしてカーラ・バンドの聴き所なのではなかろうか。
個別の感想では、やはりマリア・シュナイダーが面白く、従来のビッグバンド・サウンドとは異質な手法が新鮮だった。余談ながら、山中さんが紹介してくれた守屋さんの著書『なぜ牛丼屋でジャズがかかっているの?』(かもがわ出版)によると、守屋さんが始めてジャズに触れたのがいーぐるだったそうで、彼女もお客さんであったのだと知りました。
山中さん、女性ビッグバンド・リーダーの続編、ぜひお願いいたします。