1月16日(土)

今日は午後1時からの朝日カルチャーセンターの講座第1回と、4時から益子さんによるいーぐる連続講演新譜特集。カルチャーセンターの講座は「ジャズの歴史」第1回「ジャズ誕生からビバップ革命まで」。当たり前の話だが、この辺りは同時代的に聴いているわけではないので、はるか昔熟読した油井正一先生の『ジャズの歴史物語』のお世話になる。読んでいるうち面白くなり、関係ないところまで耽読。やはり名著である。講座でも生徒さん方にこの本を薦める。幸い、昨年アルテスパブリッシングから待望の復刊がなされたので、実物をお見せしてプロモーション。
益子さんの講演にはゲストとして、先週講演をやってくれた原田さんが登場。両者の掛け合いによってイヴェントが進行するが、このところ益子さんの新譜特集で続いているこの形式の問題点も出てきたように思う。と言うのは、お二方とも話に登場するミュージシャンたちのライヴをニューヨークで見ているところから、二人の間では会話はスムースに進むのだが、その分、そうした事前情報の無い一般ジャズファンのお客様に対しては、「説明不足」の感が否めないのだ。つまり「わかっているもの同士の会話」を聞かされている隔靴掻痒感を、おそらくお客様は感じているのではなかろうか。
問答形式は会話の相手がお二方相互なので、結果として「お客様に直接伝える」「訴えかける」構造がとりにくくなっている。それは同じ原田さんの先週の講演に比べれば歴然だ。原田さんはさまざまなエピソードを交え、「直接」お客様にフィリー・ジョーの演奏の魅力、聴き所をアピールしていた。
もう一つの問題点として、フィリー・ジョーのような知名度の高いミュージシャンではない「新譜特集」の場合、事前の告知がたいへん重要になってくる。どういうミュージシャンの、どんな新譜を取り上げるのか。その聴き所、ポイントはどこなのか。ある程度ていねい事前告知し、ジャズファンの関心を高める努力が必要だろう。私たちはそのための有効な告知機関として、com-postというささやかながら自前のメディアを持っているのだから、それを活用しない手はない。
というのも、講演自体は益子さんならではの目配りの行き届いた、たいへん魅力的な内容で、ジャズ状況の現在を知るにかっこうの音源が多数紹介されたのに、いささかお客様の数が少なめに思えたからだ。これはもったいない。
紹介された新譜に対する個人的感想を述べると、まず、従来から言われていることだが、昔ながらのジャズのように、ソロイストの個性で聴かせるタイプの演奏が少なくなり、チームの緊密な相互関係自体が聴き所となっているような構造の音楽が多いように思えた。こうしたタイプの演奏は、よほどていねいに「聴き所」を事前に説明しておかないと、サッパリ面白みが伝わらないことにもなりかねない。「聴けばわかる」ジャズではないのだ。
そのなかで、数少ないソロイストの個性がブラインドでも伝わるヘンリー・スレッジル、トニー・マラビーはやはり良い。また、いわゆる「日本人女性ピアニスト」のイメージから大きく外れる浜村昌子が面白かった。Edward Perraud のドラムスが出す異様なサウンドがピアノトリオの既成概念を大きく変えている。また、演奏の部分部分でドラムスがリーダーシップを取ったり、ベーシストがイニシアティヴを執ったりと、音楽の構成が単調で無いところが興味深かった。