2月21日(土)

マッシヴ・アタック、まったく知らない名前だ。しかし、人間的にも音楽的にも信頼している原雅明さんの企み、面白くないはずがない。なんでも、その世界(といっても中身はよく知らないのだが・・・)ではクラシック、つまり定評のある2枚組みアナログ・アルバムをばっちり聴き通そうという試み。門外漢であるが故に、大いに興味をそそられる。

結果は大成功。お客さまの反響も上々、もちろん満席。個人的にも彼らの音楽、かなり気に入りました。知らないジャンルとは言え、「クラシック」と言われていることに大いに納得。もっともまったく聴き覚えのないサウンドではなく、系統的な知識こそないけれど、まさに私好みの音。要するに「黒い」のだ。

面白かったのはゲストの荏開津さんと司会のアズーロさんのやり取り。未知の領域なのでよくはわからないのだけど、ぼくらジャズファンとはかなり「聴きどころ」が違うよう。なんと言うか、サウンド・音質のテイストのような部分に対する関心が非常に高い。

もちろんジャズファンだってそうしたところに無関心ではないけれど、どちらかというとソロさえ良ければOKみたいなところもあって、けっこう適当。しかし、当日持参された、マスタリング前の音と比べると、今回試聴したアナログ盤の音は明らかに違う。こうしたジャンルの音楽では、思いのほか「音質」というところが重要なのだなということは良くわかりました。

というか、原さんの「意図」はまさにそこにあって、オーディオ的にある程度きちんとした装置で聴くことによって、音量こそ圧倒的でも細部が「マスキング」されがちな「クラブ・サウンド」で聴き逃している部分を再確認しようということなんだろう。この試み、ぜひ継続的にやりましょう。私も大いに勉強になります。

イヴェントの内容が良かったので当然打ち上げも盛り上がり、荏開津さん相手に60年代霞町界隈のディスコ話など、年寄りの冷や水で自慢げに語ってしまいました、お恥ずかしい。同席した柳樂さんが「これから渋谷でDJやる」というので、店のスタッフと同道。

噂に聞く渋谷の「MUSIC」は素敵なお店で、ワインもつまみも上々。何よりサウンドがいい。僕らの世代では憧れだったARのブックシェルフ・スピーカーが実にいい状態で鳴っている。今まで聴いた中では最上。バーという雰囲気の中で、音楽の表情を的確に伝えるという目的をちゃんと果たしているところは、さすがの使いこなし。

最初のDJ山本勇樹さんがまたこのスピーカーの特質を生かしたお洒落で素敵な選曲。ふだんあまり聴いたことの無いジャンルの音楽なのに、いっぺんで「MUSIC」の空間になじんでしまいました。まさにこれこそがDJのワザ、うまいものです。次がいよいよわれらが柳樂さん。山本さんのマイルドなサウンドに対比を付けるような、相対的にアグレッシヴな柳樂さんの選曲はかなりジャズ寄りで、これも聴き手を飽きさせない技が見事。彼の選曲はこうした場でこそ魅力を発揮することが実に良くわかる。

このあたりでもう2本目のワインが開き、素敵な音楽と美味しいワインで気分は上々。3人目のDJはこの世界では良く知られた橋本徹さん。さすが多くのコンピレーションを手がけたというだけあって、まさにプロの選曲。ジャンルこそ違え、ジャズ喫茶レコード係りとしては大いに学ぶところありでした。

そして最後、店主中村智昭さんがブースに入ったところで村井康司さんから電話が入り、「いーぐる」でタワーでのイヴェントを終えた吉田隆一さん、アポロ・サウンド阿部淳さんらと飲んでいるとのこと。やむを得ず店に引き返し、本日3本目のワインでアルバム「N / Y」の幸先の良いスタートに乾杯。

既に爆睡状態の村井さんを脇に、阿部さん、吉田さんから村上春樹とSFの興味深い関係について教えていただく。聞けばまさになるほどと納得。ともあれ、本日は実に中身の濃い1日でありました。