8月22日(土)

ジャズ喫茶でデアンジェロのアナログ盤を聴くというのは、ちょっと変わっていると言えばそうのとおりなのだけど、現在のジャズを取り巻く状況を考えると、必ずしも無関係というわけでもないと思う。もちろんデアンジェロの音楽が直接現代ジャズとリンクしているわけではないが、たとえば、現在第一線で活動しているジャズマンは間違いなくこういう音楽も聴いているだろう。

また、あまり詳しくはないが、ヒップホップやらソウル周辺の音楽にサイドマンとしてジャズマンが参加しているケースはかなりあるようだ。どうやらジャズ・ミュージシャンならではの圧倒的演奏技術をこうした音楽ジャンルも必要としているらしい。

今回は原雅明さんが主宰する 『dublab.jp presents Album Listening Session』による定期イヴェントの第2回目。この世界での「歴史的名盤」、今回はD'Angeloのデビュー・アルバム『Brown Sugar』のリリース20周年記念2枚組みアナログ・リイシュー盤を、まるごとじっくりと聴き、その後でゲストの方々がアルバムについてトークすると言う趣向。今回はプロ・ミュージシャンの沼澤尚さんをゲストに迎え、原さんがいろいろと質問するスタイル。

ありがたいのは、私にとって不案内なこの世界で既に定評のあるアルバムが聴けること。ジャズで言えばマイルスやコルトレーンの名盤といったところなのだろうか。しかも、その演奏内容ついて具体的で詳しい解説が聞けるのだから、門外漢入門者としてはたいへん勉強になる

個人的感想をいうと、デアンジェロは私の好み。というのも、既に何度も書いているけれど、もともと私はソウル系の音楽が持つ独特のフィーリングが好きなのだ。デアンジェロの歌声はそういう点で、個人的ツボ。とは言え、ふだんあまりこういう音楽を聴いているわけではないので、後から聞いた実に詳細な解説が大いに参考になった。

とにかく沼澤さんや原さんは、私とは「聴いているところ」が違うようなのだ。なんと言うか、録音状態と言うのだろうか、いや、録音の仕方と言った方がいいのか、僕らジャズファンが余り気にかけようともしない細部をちゃんと聴いている。

その理由はなんとなくわかる。つまりジャズはだいたいスタジオ、あるいはライヴで録音してそれで終わり。もちろん編集やマスタリングなどの作業はするが、基本的に生音なので、後から出来ることには限りがある。
他方、その実態はまったく知らないのだけれど、ヒップホップやら最近のこの手の音楽は、そもそも生音という発想が希薄なようで、さまざまな作業の結果としてアルバムが出来上あがっているようだ。だから、その「生成過程」と言うのだろうか「どうやって作ったのか」と言うところに関心が向かうのもわからないではない。

原さんと沼澤さんはさまざまな専門用語を使って話していたので細かなところはわからなかったけれど、ともかく同じ音源に対して、僕らジャズファンとは違うポイントにも着目しているらしいことだけはわかった。これは大きな発見だ。

つまり、私は私なりに充分デアンジェロを楽しんだのだけれど、お二方はよりディープに聴き込んでいる。これはこの手の音楽を聴く際、楽しむ際のヒントになると思った。まだ良くわからないけれど、確実に「聴きどころ」のポイントがあるに違いない。幸いこのシリーズ企画続けてくれるようなので、そのあたりを少しづつ掴んで行こうと思う。

沼澤さんのはなしで面白かったのは、クリス・デイヴだったか、わざと「ヘタに」と、いうか、メトロノームに合わせないでドラムを叩き、それでグルーヴ感を出す練習をするとか・・・ なんとなくだけれどわかるのは、ジャズでもドンピシャで合っているリズムより微妙にズレているリズムが醸し出すグルーヴ感が気持ち良いということがある。

それと同じことかどうかは判断が付かないが、ともあれ、リズムから私たちが受け取る感覚にはけっこう神秘的なところがある。

余談ながら、打ち上げでカマシ・ワシントンの話題が出て、けっこう盛り上がった。というものたまたま原さんがカマシのインタビューをしており、もうすぐカマシに関する記事が出るという話を聞き、私も彼の新譜を聴いて多いに気に入ったという偶然があったから。後日談だが、後で読んだ原さんのカマシ、インタビューは凄く参考になる。また、教えてもらったライヴ映像が素晴らしかった、カマシの来日が楽しみである。