2月25日(月)
旧友、茂木君と久しぶりに再会。『ジャズ喫茶四谷「いーぐる」の100枚』(集英社新書)38ページに登場する、あの茂木氏である。若い、相変わらずダンディ、ファッション・センス抜群。などと男をホメても仕方ないが、要は昔のまま。キッコーマンの執行役員なんだから立派なビジネスマンなのだろうが、そうは見えない。実に趣味のよい材質と模様のネクタイを褒めようとしたら、彼が焼酎の梅干入りお湯割をネクタイにこぼしてしまったので、言い出しかねる。
昔話に花が咲く。面白いのは記憶が相互に異なり、彼の覚えている話と私の印象に残っていることとが微妙に違うのだ。それでも、ジョジョこと高柳昌行のライヴをいっしょに聴いた、赤坂山王下にあった店の名前が『エール』だったことは、二人して思い出す。近日中に行われるという中等部の同窓会に誘われるが、仕事に追われ、行けるかどうか。
今思えば、ジャズ道修行の最初にパウエル、パーカーという王道路線を茂木君に教えてもらったお陰で、今でもこの世界に生息できているわけだ。私自身は謙遜ではなくあまりセンスの良い方ではないのだが、茂木とか、日野原とか、亡くなってしまったポニー・キャニオンからヴァージン・レコードへ行ったハリーこと、金子陽彦など、それぞれ得意分野こそ違え、優れた音楽的センスに恵まれた友人たちと知り合えたことが、今の自分をつくっていると思う。そして、そうしたありがたい環境は今でも続いている。
というか、ちょっと自慢すると、私は才能のある人間を見抜く能力だけはけっこうあるつもりだ。その動物的嗅覚で今でも「いーぐる連続講演」を行っているのだけど、これは自分自身のためでもある。
2月26日(火)
益子さん来店。私のまったく無知なアニメの世界の話を聞く。面白い。東浩紀氏などはこういう世界にのめりこんだわけだ。その話に格闘技の話が混ざり、内田樹氏のこととか、たまたま最近読んだ『隠蔽捜査』(新潮社刊、かなり面白かった)の著者、今野敏氏も空手をやっているとか、格闘技話題でも盛り上がる。
音楽の話では、近頃は楽理の知識を絶対視する人たちがいるけれど、チューニングの狂ったギターでもめちゃくちゃカッコいいアート・リンゼイの音楽の魅力なんて、いったいどういう理論で説明するんだろうねと益子さんが慨嘆する。それに対し私が、自分が信じていることの前提を疑ったことの無い人たちに、信念の根拠を尋ねてもはかばかしい答えが返ってくることは無いので、なるべく無用な摩擦は避けるしかないねと応じる。