5月11日(日)
上野水上音楽堂に、村井康司率いる“スインギン・ココナッツ”の演奏を聴きにいく。早朝からの雨も幸い上がり、少し肌寒いが、やはり生音で聴くビッグ・バンドは迫力がある。バンドリーダーの趣味を反映したのか、凝った選曲が多いが、それを難なくこなすバンド・メンバーの実力には驚いた。特にメセニーの《ファースト・サークル》をキッチリ演奏したのは驚嘆もの。
しかしこのバンドの本当の凄みは、アマチュアとは思えない“音楽性”があることだ。“音楽性”などという言い方はあいまい極まりないのだけど、昔オーディオの世界でこの言葉がよく使われた。要するに、客観的特性に落とし込めない音質の魅力を“音楽性”と表現したのである。
例えば、歪み率やワット数で明らかに劣る外国製アンプが、日本製のアンプより聴いていて楽しいとき、“音楽性”に優れている、などと使ったのだ。この事実は私も実感しており、大体において外国製のオーディオ製品のほうが面白い。想像するに、外国の製品は作る人が実際に音楽を聴きながら作っているのだろう。他方、日本のメーカーはむしろ測定器に目が向きがちなのではないのか。もちろんこうした体験は十数年も昔のことなので、今では日本製品も変わっているのだろう。
話を“スインギン・ココナッツ”に戻せば、このバンドはリーダーは言うまでもなく、メンバー全員が「ジャズがわかっている」のである。だから面白い。具体的にいえば、音量のダイナミックレンジのつけ方、アンサンブルの響かせ方にキチンとしたメリハリがあり、それが音楽の表情を豊かで魅力的なものにしている。比較対象にしては申しわけないが、同時に聴いた某バンドは、うまいけど面白くない。言ってみれば、特性はよいけれど聴いて飽きる、かつての日本製オーディオ製品のようなのだ。