5月10日(日)

いーぐる掲示板上で香田さとるさんという方とちょっとしたモメごとが起こった。実を言うと、この方は以前から書き込みをされておられたのだが、ジャズを女性に見立てるとどう思うかなどという、本気なのかからかっているのか判断しかねる質問が多かったので、失礼ながら無視していた。ほっておけばいずれやめるだろうと考えていたのだが、そうもいかない書き込みをされた。
私もメンバーの一員であるジャズサイト、「com-post」のジョシュア・レッドマンの新譜レビューが否定的な内容で、「JAZZ TOKYO」の悠雅彦氏のレビューとは正反対だが、こうした事態は、いーぐるの信用に関わるのではないか、また、後藤は数を頼んで強気になっている、という趣旨の書き込みである。
これは事実に反する。まずジョシュアのレビューはメンバー5名によるクロスレビューであり、明らかに否定的だといえるのは八田さんのレビューだけで、私を含めた4名のレビューはそれぞれ多様な観点を述べており、「否定的」とは言えない。そもそも複数のレビューに統一見解があるように考えること自体おかしな話だが、当然、悠さんのレビューと反対であるという言い分も成立しない。
また、com-postは同人による自由意志で運営されており、たとえば「80年代の100枚」の選考座談会を読んでいただければお分かりのように、私が専制的にふるまって自説を通したというような事実はない。このように香田さんは、com-postの記事を読んでみればすぐにわかるような間違いを、多くのジャファンの目に触れるいーぐる掲示板に書いたのだ。
これは無視するわけにもいかないので、「ちゃんと記事を読んでください」という趣旨の書き込みをした。すると外野から、事実関係の確認もせず「香田さんが正しい」という書き込みが現れた。一方、「馬鹿」さんというペンネームの方からの「ジャズという世界で発言力を持っている後藤さんは、発言力という意味で相対的に『弱者』である香田さんが、ジョシュアのレビューに事寄せて言いたかったことを、もう一度尋ねてみたら」という趣旨の書き込みや、個人的に知っているKirkさんの、私を巡る人間関係の実情は、決して香田さんが思い込んでいるような、取り巻きを従えたボス的なものではないことなど、とにかく短時間に多くの書き込みが寄せられた。
「馬鹿」さんの言い分には一理あると思い、私が香田さんに本音を尋ねたところ、ジョシュアのレビューに対する事実誤認は認めたものの、結局、個人的に私のことが嫌いだという回答が寄せられた。理由として、私が慶応幼稚舎出身を鼻にかけ、エリート意識丸出しだというのである。そもそも私は幼稚舎出身ではなく、毎年数千人単位で卒業生が出る学校を選考進級で(単位がぎりぎりなので教授会で卒業の是非を審議する)ようやく卒業させてもらった人間が、エリートのわけはない。このように香田さんの言い分は、事実誤認に基づく思い込みが非常に多い。
とは言え、香田さんが私に対してなんらかの否定的な感情を抱いたというのは事実だろう。だからその部分に対しては失礼なことをしたと思う。しかし、香田さんの言に寄れば「カウンターで話をさせてもらった」というジャズファンに対し、何の理由もなく悪感情を抱かせるようなことは営業上からもありえない。「数を頼んで強気になっている」という誤解からも想像できるように、おそらくは私のジャズについての見解が、香田さんの考え方とは異なっており、何らかの議論、あるいは論争となり、そのことが香田さんの否定的感情に繋がっていると考えるのが自然だろう。
しかし「カウンターで話をした」ファンの方は数え切れないほどおり、私は香田さんという方の名前と顔が結びつかないので、そのきっかけが何であったのかはわからない。私が香田さんに聞きたかった「本音」とは、そのときの議論の内容で、それがわかれば釈明、あるいは詳しい再説明の可能性も開けるのだが、結果としての否定的感情だけを力説されても、覚えていないことへの謝罪は、どこかしら釈然としない。
実を言うと、香田さん以外にも、こうした何年も昔の、私の記憶がはっきりしないようなことを理由とした掲示板への否定的書き込みは、今まで何度もあり、それらはおおむね事実誤認であったり、否定のための否定(要するに嫌がらせ)であるようなことが少なくない。今回の一件の発端と想像される、私と香田さんとの、おそらくは何年か昔のやり取り自体が、誤解に基づく思い込みであると言い切る根拠もないが、また一方、そうではなく、私の発言に何らかの問題があったという確信も、持つことは難しい
というのも、香田さんという方は、悪気は無いのかもしれないが、ご自身も認めたように、ジョシュアのクロスレビューを、実際は否定的なものは5分の1に過ぎないのに、全体として否定的だったと勘違いしてしまったように、どちらかというと思い込みが激しい方のようだ。だとすれば、香田さんと私との行き違いの原因であろうと思われる、私のジャズに対する見解も、香田さんは趣旨を誤解して受け取っている可能性も、少なくないように思えるのである。なにしろ香田さんは、私に対する否定的感情を持つにいたった理由を、ひとつとして明確にはしていないのだ。
まあ、結局は不毛な結果に終わったのだが、私がこの一件に対して言いたいことは、掲示板などに現れる私に対する否定的見解には、理由、根拠が示されていないものが多いということである。私は何冊かの著作を出版しており、また、このブログ、いーぐる掲示板、そしてcom-postと、私の見解を特定し、閲覧する機会はいくらでもあるというのに、そうしたものを参照しての具体的批判はほとんど見られないのだ。藪から棒に態度が大きいなどと言われても、「はい、すみませんでした」としか言いようがない。そんなことでは批判した方だって釈然としないのではなかろうか。