5月30日(土)
やはり映像の力はすごい。前回の「アイリッシュ・ミュージックの名盤を聴く」で、いまひとつピンとこなかったことが、たちどころに氷解した。おおしまゆたかさんによる「アイリッシュ・ミュージックの名盤を聴く〜映像篇」は、全編、貴重なビデオ、DVDによる、演奏、楽器、ダンスの紹介で、片時も目が離せない。ひとつずつ感想を述べていこう。
まず楽器。イルン・パイプというバグ・パイプの仲間の、構造、演奏の仕方を解説した映像が面白い。(右利きの人の場合)右腕とわき腹の間に挟んだ空気ポンプ(小型アコーディオンのようなものか)で、左のわき腹に挟んだ空気タンク(バグ・パイプの袋状のものにあたる)に空気を送って溜め、そこから出す空気でダブルリードの笛を鳴らすと、通常のバグ・パイプが1オクターブほどしか出せないに、2オクターブも出すことができるという。
とはいえ、この楽器、説明からもわかるように、単純な口で空気を吹き込む笛より、はるかに演奏が難しそうだ。なぜこんな複雑な構造にするのかというと、2オクターブの音域を出すため、リードが通常のものより薄く、これを口で吹くと湿気ですぐリードが反り返ってしまい、役に立たなくなるそうだ。また、バグ・パイプと違い、イルン・パイプはコード・サウンドも同時に出せるという。なあるほど、すべての出来事には理由があるのだ。
他にも、フィドル、ハープ、バンジョーなど、アイリッシュ・ミュージックで使われるさまざまな楽器の映像での紹介は、よりこの音楽の特色がリアルに実感できる。その結果、前回の音だけのとき、いまひとつわかりにくかった同じようなパターンの繰り返しも、ライヴの聴衆を前にした映像で、観客と演奏者が一体となって盛り上がりつつ音楽が進行しているんだということが手に取るようにわかった。まさに百聞は一見にしかず。
そして圧巻がやはりリヴァーダンス。実はこのダンス、当初は男女一人ずつのカップルとか、少人数で踊られていたものが、比較的最近になって、ショウアップするためスターダンサーを中心に大人数で行われるようになったそうだ。面白かったのは黒人タップダンサーとの共演映像で、両者の「身体所作」の違いが実に明確に現れていた。上体をすっくと起こし、下半身だけで実にユニークな表現を行うリヴァーダンサーと、上半身もしなやかに使って全身で表現する黒人ダンサー、まさに文化の違いが身体感覚の違いとして現れた好例だろう。
最近com-postのクロスレビューでも、原田さんのお題である、デレク・トラックスとか、次回村井さんのベラ・フレックとか、ジャズ以外の音楽を聴く機会が増えたが、やはりいろいろな音楽に接することが大事だと痛感した。これを機会に、おおしまさんには西欧伝統音楽のご紹介をシリーズ的にやっていただきたいと思います。ぜひよろしく。