【星の王子さまとの出逢い】
12月16日、三鷹市芸術センター星のホールでアルト奏者仲野麻紀出演による「星の王子さまとの出逢い」を観ました。事前に予想していたのは、サン=テグジュペリのよく知られた物語をテーマにしたジャズのコンサートでしたが、実際のステージは想像を超えるドリーミーなものでした。
それは視覚と聴覚、そしてことばが一体となった総合アートで、凝った舞台装置と優れた照明技術によって、「星の王子さま」が描き出す童話的でありつつ含蓄の深い世界観が見事に描き出されていたのです。
冒頭半透明のスクリーンに夜空に浮かぶ星々が映し出され、照明の変化によって背後の砂漠に不時着した飛行機を模したステージが浮かび上がる演出によって、これがふつうのジャズ・コンサートではないことが明らかになります。
そしてアルト・サックスをたずさえた仲野がステージに現れ、舞台上の語り手、中井絵津子が語る「星の王子さま」の物語に合わせ演奏を始め、背後にサン=テグジュペリ自身が描いた素朴で可愛らしい挿絵が映し出されると、そこに私たちが幼いころ抱いていた「夢の世界」が現出するのです。
しかし、舞台の進行とともに、「大切なものは目に見えない、心の目で見ないと」「仲良しになったら、僕らは互いに世界で一つだけの特別な存在になるんだ」などといった心に染み入ることばが語られ、この童話が思いのほか深い洞察に満ちた物語であることが明らかになる。
仲野の演奏は当初物語の伴奏であるかのように始まるのですが、彼女自身のアフリカ体験がもたらすのか、サハラ砂漠が舞台である「星の王子さま」の世界と見事な共鳴現象を引き起こし、冒頭に記した音楽と舞台装置・物語が一体となった総合芸術が現出するのです。
ほぼ1時間弱のコンパクトな公演でしたが、見終わると同時に何とも幸せに満ちた心持になれたのは不思議な体験でした。おそらくこれはプロジェクトを仕切った総合プロデューサーの狙いが見事に成功した証なのでしょうね。
店に戻り、同時に発売された仲野初のソロ・アルバム『openradio』を聴いてみたのですが、彼女がもともと持っていた楽器の音自体が持つ個性・説得力がより表現力を増し、ジャズ本来の魅力である、音自身が語りかけてくる充実した時間を過ごすことが出来ました。このアルバムは仲野の新境地であると同時に最高傑作と言っていい優れた作品に仕上がっています。